2017年11月24日金曜日

観測隊/研究観測


 11/27に出発なのであと3日しかないのに、家が片付いておりません。

_人人人人人_
> やばい <
 ̄Y^Y^Y^Y ̄

 第59次南極地域観測隊(JARE59)の現地活動は大きくふたつに分けられます。
 ひとつが研究観測、もうひとつが設営です。
 家が片付いていないという危機的事態に目を逸らしながら、今回は南極地域観測隊の二大柱のひとつである研究観測の大きな構造に焦点を当てた記事となります。細かい研究内容についてはまたのちほど触れると思います。

 まずJARE59ですが、この研究活動は「南極地域観測第Ⅸ期6か年計画」(第Ⅸ期計画)の第二年次の計画ということになっています。この「第Ⅸ期計画」というものは南極地域観測統合推進本部総会(*1)という謎の組織によって計画されたものです。
*1) なんかすごい電気消した部屋で老人が集まっていそう。

 第Ⅸ期計画という名前からわかるように、これまでの57回の活動の中にⅠ-Ⅷ期までの大きな計画の枠組みがあり、58回目が第Ⅸ期の初年度、そして今回の59回目が第Ⅸ期の二年目というわけです(*2)。
*2) ギリシャ数字で書くとファルシのルシがコクーンでパージ感がすごいのだけれども、書類とかだとこうなっているので仕方がない。

 第Ⅸ期計画での観測内容は、大きく以下に分類されます。

  1. 基本観測
  2. 重点研究観測
  3. 一般研究観測
  4. 萌芽研究観測
  5. 公開利用研究
  6. その他


1) 基本観測
 基本観測は「定常観測」と「モニタリング観測」からなります。
 どちらも特定の研究のために観測を行うというよりは「とにかく観測する必要があるから観測する」というような立ち位置のものです。たとえば気象庁では過去のデータから→昭和基地の観測が常に確認できるようになっていますが、これも基本観測が「とりあえず観測しとくかぁッ!」というノリで観測してくれているおかげです。

 定常とモニタリングの違いですが、定常観測は情報通信研究機構、国土地理院、気象庁、海上保安庁、文部科学省が担当し、モニタリング観測は国立極地研究所が担当しているという点です(*3)。
*3) こういう細かいところはよくわからないので次に行こ。


2) 重点研究観測
 重点研究観測は「全球的視野を有し、社会的要請に応える総合的な研究観測」ということになっておりますが、南極の研究観測活動でいえば花形です。野球でいえば4番、フルコースでいえばメインディッシュ、ネウロでいえばドーピングコンソメスープ、Mount&Bladeでいえばランス突撃。

 メインテーマは「南極から迫る地球システム変動」ということになっており、さらに3つのテーマに分けられています。

2-1.「南極大気精密観測から探る全球大気システム」
 これは主に南極昭和基地大型大気レーダーProgram of the Antarctic Syowa MST/IS Radar(PANSYを用いて南極の大気が地球に与える影響を調べるという研究テーマです。

 そもそもレーダー(Radar)が何かと言うと、電波を発射してそれが「何か」にぶつかって戻ってきた反射波を捉えることでぶつかった「何か」に関する情報を得ることができるという観測機器です。
 電波を発射し、受け止めるという機構上、通常はある特定の方向に向いた形になっています(パラボラアンテナとか)。このレーダーのアンテナ(送受信機)の向きを動かすことで三次元的な情報を得ることができるのですが、機械というものは動作を増やすと故障しやすくなるため、特に環境の厳しい南極で動かすことは難しいです。

 しかしPANSYレーダーは1本や2本ではなく、1045本のアンテナを持つフェイズドアレイレーダーというレーダーの一種です。このフェイズドアレイレーダーは、レーダーアンテナそのものを動かすのではなく、発信する電波に仕掛けを施すことで機械的な動作を最小限に抑えて三次元的な情報を得ることが可能になっています。細かいことは→PANSYについてをご覧ください。

 PANSYは南極初の大型大気レーダーで、2011年(このときは第Ⅷ期)に初観測が始まっていました。今回の第Ⅸ期の重点研究観測では「もっとこのPANSYをガンガン使っていこうぜ!」ということになっているというわけです。

 ちなみに南極のPANSYレーダーと似たレーダーは国内にもあり、たとえば信楽のMUレーダーもフェイズドアレイ式のレーダーです。下の画像が信楽に行ってきたときのレーダーの写真です。大量に並んでいるものがアンテナで、これが動かずに三次元的な探査を可能としています。



 そしてこちらは信楽の狸の置物。


 これも狸の置物。


 これもっ! これもっ!


 信楽にはMUレーダーと狸の置物しかありません(*4)。
*4) 信楽の方は大人の気持ちでこのページは見なかったふりをしてくださいますようお願い申し上げます。

2-2「氷床・海氷縁辺域の総合観測から迫る大気ー氷床ー海洋相互作用」
 二つ目の重点研究観測は、海に関するものです。


 図は→南極地域観測事業の最近の成果 南極から地球・宇宙を見るの図から引用しました。横軸が年、縦軸がpH(水素イオン指数)です。pHとかいうものは遠い昔、遥か彼方の銀河系で理科の授業中にやったような気がしますが、覚えていない方が大勢だと思います(*5)。7が中性で7より高いとアルカリ性、低いと酸性を示します。
*5) 安心しろ、わたしもこんなん覚えてねぇ。

 通常、海水の表面は弱アルカリ性(pHが8くらい)になっており、図の緑点(観測値)も最初は8.1前後になっていることがわかりますが、この値が徐々に低くなっているのも見て取れます。この原因は二酸化炭素が海水に溶ける量が増えたことであると考えられており、今後二酸化炭素が増えていくとさらに酸性化が進むと考えられます。図中、赤がこのままの調子で二酸化炭素を出し続けた場合の予測値、青が排出規制を行った場合の値です(*6)。
*6) つまり、排出規制を行えばある程度防止はできるものの、やっぱり酸性化はしてしまう。一度増え始めたものを減らすのは難しい。

 こういった海水酸性化が進んでいくとどうなるかというと、海洋中の生態系に影響が出てきます。特に影響を植物プランクトンなどの微生物ですが、何か一種類の生物でも増減すると生態系が崩れ、他の生物までその余波が波及する可能性もあります。たとえば氷の天使だとか呼ばれるクリオネ(*7)などは餌が真っ先に影響を受けるため、絶滅の可能性があるといわれています。
*7) 捕食姿は寄生獣だけど。

 この重点観測研究はこうした酸性化などの現象を中心として、海水や海氷を対象とした研究テーマとなっています。

2-3「地球システム変動の解明を目指す南極古環境復元」
 映画『南極料理人』で機械が掘っている穴の中に料理人が大事なペンダントだかなんだかを落とすシーンがありました。あのペンダントを落とすための穴を掘っているついでに採取されるのがアイスコアという氷の棒です。

 アイスコアはずっと古い時代から降り積もり続けた雪が押し固められ、氷となって固まったものなので、その中に含まれている空気やエアロゾル(大気中の塵)、あるいは水分子そのものを調べることで、過去の気候を特定することができます。
 第三の重点研究観測のテーマはこのアイスコアから再現される、古い気候に関するものです。

 古い時代の氷ほど下の層であるため、当然ながら深くから掘り出したアイスコアのほうが古い時代の情報を持っていることになります。過去の第Ⅷ期までで、既に地下3000mのアイスコアを掘り出すことに成功しており、これは72万年までの情報を持っています。すごいです。古いです。地下3000mとなるとペンダントも投げ込みたい放題です。
 もっと掘り進めればさらに深い情報が取れる——と言いたいところですが、場所によってどこまで掘れるかが違っており、現在の採掘地点ではより深く掘ることは難しいようです(*8)。
*8) 南極は大陸なので、氷の下が陸地になってしまうと当然ながらもう掘れない。

 というわけで今回の第Ⅸ期ではもっと深く掘れる採掘地点を探しています。具体的には、77万年前に地磁気の逆転現象(*9)が起きているので、この頃を含みつつ過去80万年を越える時代のアイスコアの採取が目標のようです。
*9) たとえばコンパスは地球の(磁気的な)北極がN極、南極がS極となっているのでNの針が北を指すが、地磁気の逆転現象が起きるとNの針が南を指すようになる。これまでのN針をS針に塗り替えたものを買う必要があるのでコンパス屋が儲かる。地磁気逆転現象はこれまでに何度か起きているが、理由は判明していない。

 
3) 一般研究観測
 一般研究観測と次の萌芽的研究は「研究者の自由な発想に基づく研究観測や調査」ということで様々な研究があります。一般研究観測はその中で、特に南極の特色を生かして、比較的短気に集中して実施されるものということになっています。
 具体的には以下の通り。重点研究観測と違って種類が多いので、今回はひとつずつの説明はしません。


  • 3-1「南極昭和基地での宇宙線観測による宇宙天気研究の新展開」
  • 3-2「無人システムを利用したオーロラ現象の広域ネットワーク観測」
  • 3-3「SuperDARNレーダーを中心としたグランドミニマム期における極域超高層大気と内部磁気圏のダイナミクスの研究」
  • 3-4「電磁波・大気電場観測が明らかにする全球雷活動と大気変動」
  • 3-5「南極低層水昇温・低塩化期における深層循環の変貌解明」
  • 3-6「南極成層圏水蒸気の長期観測」
  • 3-7「全球生物地球化学的環境における東南極域エアロゾルの変動」
  • 3-8「東南極における氷床表面状態の変化と熱・水循環変動の機構」
  • 3-9「地震波・インフラサウンド計測による大気ー海洋ー赤p表ー水循環変動の機構」
  • 3-10「南極における地球外物質探査」
  • 3-11「絶対重力測定とGNSS観測による南極氷床変動とGIAの研究 ー宗谷海岸およびセール・ロンダーネ山地ー」
  • 3-12「露岩域と生物の変革から探る生態系のメジャートランジション」
  • 3-13「一年を通じた生態計測で探る高次捕食動物の環境応答」
  • 3-14「南大洋インド洋セクターにおける海洋生態系の総合的研究プログラム」
  • 3-15「極限環境下における南極観測隊員の医学的研究」


 わけわかんねぇ単語が大量に並びますね。個人的には11番は全体的にオシャレ感があり、レストランのメニューに採用されていてもおかしくはないと思うのですがいかがでしょうか。地名入っているとなんか産地の作物が入っているのだろうな感がある。


4) 萌芽研究観測
 萌芽研究観測も研究者の自由な発想に基づく研究です。一般観測研究との違いは、こちらは将来の研究観測の新たな発展に向けた予備的な観測・調査・技術開発などを目的としている点です。

 今回は、

  • 「無人航空機による空撮が拓く極域観測」
  • 「南極仕様SLR観測システム開発」

が実施されることになっています。


5) 公開利用研究
 まとまった内容としては最後に公開利用研究ですが、これは公募によって採択されたもので、研究者が必要経費を負担したうえで観測船や基地などを利用するものです。

 研究には金ぇ! が必要です。金ぇ! が必要になるところでわかりやすいものだと観測装置や計算のためのコンピュータが思いつきますが、それ以外にも学会に行ったり打ち合わせをするための旅費、研究者や共同研究者のための人件費、一度買っても維持したり消耗品のための消耗品費、論文を書いても雑誌に載せるための論文投稿費など、金ぇ! が必要なのです。世の中金ぇ! なのです。研究のために金ぇ! が欲しい。研究のためじゃなくても金ぇ! が欲しい(*10)。
*10) はぁ金ぇ! が欲しいなぁ。宝籤当たらねぇかなぁ。

 もし研究者が大金持ちなら自身の財布から金を出すことも可能です。昔は金持ちでなければ研究者になれませんでした。しかし現代では、研究者は何らかのプロジェクトや助成事業に採択されることで研究の予算を得ることができます

 南極での研究観測でいえば、1-4の重点研究観測はそのプロジェクトとして採択されれば研究費用が(たぶん)出ます。しかしこの公開利用研究だけは研究者が必要経費を負担する必要があるということで、他のプロジェクトや助成事業で採択されておく必要があるということです。

 JARE59で実施される内訳は以下のとおりとなります。

  • 「しらせ搭載全天カメラ観測による南極航海中の雲の出現特性」
  • 「3次元観測水中無人探査機を用いた南極湖沼のハビタットマッピング」
  • 「しらせ船上での大気中O2/N2及びCO2濃度の連続観測」
  • 「フィールド安全教育プログラムの開発に向けたリスク対応の実践知の把握」
  • 「超伝導重力計の冷凍機性能に関する調査研究」
  • 「吹雪の広域自動観測と時空間構造の解明による南極氷床の質量収支の定量的評価」


7) その他
 この他に、継続的国内外共同観測と船上観測、海洋観測があります。
 継続的国内外共同研究ではオーストラリア気象局ブイの投入などが行われ、船上・海洋観測では南極観測船「しらせ」での往路・復路での観測中に、東京海洋大学の「海鷹丸」を加えて観測を行います。


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Maira Gall