2019年4月1日月曜日

はじめに

  このページはトップに固定されています。

 このウェブログは2017-2019年に行われる、第59次南極観測隊の一隊員による、南極観測隊に関連する内容を非公式に記載したものです。本内容は、概ね以下の4つに大分されます。


  1. 南極そのものに関するもの
  2. 南極観測隊に関するもの
  3. 南極観測隊員に関するもの
  4. その他


1) 南極そのものに関する内容 → タグ:南極
 第59次南極観測隊(以下、JARE59)は、当たり前ですが南極で活動を行います。南極地域の定義は一般に南緯60度以南の領域で、ここから先は日本とは大きく異なる気候や生態系が待ち受けています。それらについて紹介しつつ、実際に南極にいる間は実際の画像を交えて紹介できればと思います。

→南極/南極の気温(2017/11/21)
→南極/環境保護条約(2017/12/20)
→南極/ブリザード(2018/01/04)


2) 南極観測隊に関する内容 → タグ:観測隊
 この内容が(おそらく)メインコンテンツになる内容です。

→観測隊/スケジュール(2017/11/13)
→観測隊/研究観測(2017/11/24)
→観測隊/観測隊構成(2017/11/26)
→観測隊/オーストラリアでの行事(2017/12/01)
→観測隊/砕氷船しらせ(2017/12/08)
→観測隊/日本南極観測隊の歴史(2017/12/11)

 南極に関する記述がある本やウェブサイトはすでに十分な数があるのですが、その大部分の内容は南極の自然気候や生物、研究活動、探検歴史などに関するものです。しかし南極についてではなく、日本の南極観測隊そのものに関しては同じ研究者に対してもあまり知られていません。

 JARE59でどれくらい期間、何人くらいの人間が、どのような活動をするのか。
 JARE59ではそのためにどんな準備をして、どんな訓練を行い、どのような行程を経て活動をしていくのか。
 JARE59は何を目的としているのか。

 そのようなことを記述していきたいと思います。

 現地での実際の活動や、それに関してすっごーいたーのしーといった内容は基本的には記載しない予定です(*1)。というのも、自分は今回が初めての南極で、右も左もわからないし、失敗することもあるだろうし、何もかもうまくいかず、前後不覚になり果てることもありえるわけで。要は現場で実際にうまく行くかわからないので、そういった内容は可能な限り書かないというリスク軽減だと思ってください。
*1) なんかすごくすっごーいわーいたーのしーになったら書くかもしれません。

 それと本ウェブログは基本的に観測隊の最新の活動内容をお届けするものではありません。南極観測隊の活動が国家事業の一種であり、大本営の報道が優先する必要がある場合があるためです。非公式が先に発表するとどうなるかはよくわかりませんが、もしかするとわたしの首が飛ぶかもしれません(*2)。
*2) うっひょー。

 例えば南極に突如開いたゲートからのちにジャムと呼ばれる異星人の飛行機が飛び出してきたり、遊星に付着していた物体Xによって基地が破壊されてどうせ死ぬなら道連れだという勢いで頑張っていたとしても、そういったレベルの情報はかなり重要なので公式発表(*3)があるまでの間はこちらから発表するとはできません。
*3) そういう情報が流れたら戻ってきた隊員の血液が高温に晒された途端に正体現さないかどうかとか、L型アミノ酸をきちんと消化できるかどうかをちゃんと確認してください。

 最新の内容や南極観測隊に関するまともな情報が欲しければ、
→国立環境研究所 南極観測のホームページ
→昭和基地NOW
 などをご覧ください。

3) 南極観測隊員に関する内容 → タグ:隊員
 自分が高校生のとき、とある公演をした南極観測隊経験者の方は「南極に行きたければ金持ちか研究者になれ」と言いました。残念ながらお金持ちには向いていなかったので(*4)研究者になり、結果的には南極に行くことになったので、個人としては方針はおおむね正しかったわけですが、実際のところ観測隊の中で研究者が占める割合はそれほど多くありません。JARE59の観測隊にはいろんな人々がいます。
*4) はー金が欲しい。

 そうした雑多な人物を紹介していくわけですが、年齢とか血液型とか家族構成とか趣味とか弱点とか性癖とか黒歴史とか、なんかそういう他人の個人情報とかわたくしわりと関心がないというかどうでも良いのでしません。

 紹介するのは、

  • 南極での仕事内容:何をするために南極に来たか
  • 南極に来ることになった経緯:どうすれば南極に来られるか

に絞りたいと思います。というのも、これらの情報が新たに南極に来たいと思っている人々に役立ちそうだと思ったからです。

4) その他 → タグ:その他
 それ以外の内容です。

→その他/もふもふモフモフ(2017/11/24)
→その他/宇宙よりも遠い場所(2017/12/31)


 以上の内容を適宜更新していくことになります。隊員のSNSの情報発信は公序良俗に反するものや観測隊・南極観測の名誉を傷つけるものは認められないことになっていて、なんかこの「はじめに」を書いた時点でだいぶ怪しい気がするのですが、突如このブログが消えたらそういうことだと思ってください。

 遅れましたが、このページを含む本ウェブログの主な記述者は越冬の一般観測研究の山田です(*5)。本ウェブログはの2017年11月からJARE59越冬隊終了の2019年3月までを目標にのろりのろりと更新していく予定です。
*5) この「越冬」だとか、「一般観測研究」だとかについてもおいおい説明できれば。

2018年9月12日水曜日

観測隊/輸送の手引き

 わたくし昭和(*1)最後の生まれなので、誕生日過ぎると平成の年号=年齢になります。今なら平成30年だから、誕生日前は29歳、誕生日後が30歳という形。自分の年齢か年号を覚えておけばどちらかを保管できるのですが、来年からは平成が終わってしまうので不便になるなぁ、などと思っていたら今年の時点で年号覚えていたのに自分の年齢を間違えていた
*1) 30年くらい前はそういう年号があったという伝説がある。

 誕生日後に30歳になるのに、もうすでに30で誕生日後は31になると思っていました。書類書いてて指摘されて気づいた。危ねぇ。4月の誕生日会のときに「30になりました」と言ったような気がするので、半年近くは間違えていたような。南極にいてあんまり書類を書く機会がなくて良かった。

 さて、今日(9月12日)から1ヶ月間、みずほ基地とドームふじ基地の間にある中継拠点という場所に行く予定だったのですが、悪天候につき1日順延と相成りました。おかげでエクスペリエンスのホラーADV『死印』の続編『NG』(*2)が買える——と思いきやPS storeに出てこない。なぜだ。更新タイミングが日付変更ではないのか。
*2) ヤンキーが都市伝説を殴るADV。

 とりあえず1日時間ができたため、今回は昭和基地以外の基地について書きたい——と思ったけれど、どうせなら実際行ったあとのほうが写真があって良さそうな気がしたのでこちらも順延で。

 昨今第一便、託送便といった輸送の話があったため、今回は輸送に関して書きたいと思います。

 第一便というのは砕氷船しらせによって輸送した荷物のうち、優先して越冬隊員に届けたいものを昭和基地近くまで来てからヘリコプターで輸送するもので、12月下旬に日本から物資を少量ながら受け取ることができます。

 これよりも先んじてとなると、→観測隊/スケジュールでも触れたDROMLAN航空機があります。

→昭和基地NOW!!
2015年11月20日 思いがけないプレゼント

 ただしDROMLANによる輸送は個人の荷物はあまりありません。

 南極という、人間の居住圏からは大きく離れた場所に物を届ける主たる役割を担うのは、やはり砕氷船しらせなのです。
 というわけで主として砕氷船しらせでの物資輸送の流れを説明します。

 しらせでの輸送の流れを簡単に書き出すと、

  1. 梱包・計量・マーキング
  2. 物資集積、積荷リスト作成/提出
  3. 貨物入庫報告書作成/提出
  4. 埠頭倉庫での搬入・検数・立会/しらせへの積み込み

となっています。

1. 梱包・計量・マーキング


 観測物資にしろ、設営物資にしろ、私物にしろ、まずは物資を梱包して計量、そしてマーキングと推移します。
 物資は基本的にダンボールで輸送されますが、この際は後述の検数(および荷整理)のためにはある程度決まった荷姿(梱包)で望ましいです。そのため、一般にダンボールでの輸送では、小ダン/中ダン/大ダンというあらかじめ規定された3種類の荷姿で行われることが多く、特に中ダンが多く使われます。


 必ずしもダンボールで輸送する必要はなく、たとえば上の図ではスコップはダンボールに入らないため、裸(何もつけない状態)で輸送したりもします、また、輸送形態にはスチールコンテナ(スチコン)、12ftコンテナというものもあり、どちらもダンボール輸送に向かない大型のものを運ぶときに用います。どちらかというとスチコンは重いもの、12ftは大きいものに適します。
 
 が、それにしてもやはり便利なのが中ダン。ほとんどの物資はこの形で送られます。


2. 物資集積、積荷リスト作成/提出


 このように梱包した物資は基本的に極地研の倉庫に集積されるわけですが、港へ持ち込まれてしらせに乗せる前に、積荷リストというものを完成させる必要があります

 これは読んで字のごとく、しらせに乗せる積荷をリスト化したもので、物品名称や重量、容積はもちろんのこと、金額や積付場所、備考も書く欄があり、物資そのものの情報のほか、どこに積み込むのか、どこに送るのかなどを記載することになります。さらに物資の識別のため、このリストの情報から伝票を作るとともに物資に貼られます(下図でダンボールに貼られているのが情報を記した伝票)。



 大量の物資が船に乗せられますが、船上で使われる物資はごく一部で、大部分の物資には目的地があります。そのため、重要な要素である目的地やその緊急性については伝票番号の記号で分けるほか、梱包のガムテープでも色分けします。今回の場合、

  • 黄土色→昭和基地への通常物資
  •  赤 →昭和基地への優先物資
  •  青 →船上もしくは沿岸で使う物資

というように分類していました。


3. 貨物入庫報告書作成/提出


 積荷リストができたところで、今度は貨物入庫報告書というものを作ります。

 積荷リストはあくまでリストですが、貨物入庫報告書はその名の通り、物資が港の倉庫に入庫するときに使うものです。しかし積荷リストで基本的な事項はほぼ網羅しているため、積荷リストからそのまま貨物入庫報告書が作ることは可能です。


4. 埠頭倉庫での搬入・検数・立会/しらせへの積み込み


 ここまできたら、あとは埠頭での搬入・検数・立会が10月半ば、しらせへの積み込みが10月末〜11月頭に残すのみ。


 検数というのは検数協会という謎の団体に積み込み物資をチェックしてもらうことで、なんかよくわかりませんが厳格なチェックがあります。冬なので寒いです。南極よりこの時期のほうが寒かったな。




「輸送が終われば南極観測は半分終わったようなもの」という言葉もあり、それだけ輸送というものが重要なのですが、そのぶんだけやらねばならないこともあります。
 特に検数がある10月までの間、研究は進まず、論文は書けず、作業は進まず、3-4周回もできずという有様で大変でした。将来的にはヒュッと輸送できるようになればいいなぁ。

 本日は以上です。

2018年8月13日月曜日

南極/いつでも死ねる場所

 久しぶりにG=ヒコロウ(*1)の新作が出るそうです。8月31日。
*1) 呼吸するように休載する漫画家。

 G=ヒコロウはファミ通ブロス(*2)で『プロフェッサーシャーボ』やっている頃から好きなのですが、ほんとこのおっさん新刊出してくれない。道満晴明はわりとコンスタントに新作出しているけど、G=ヒコロウはほとんど見ないから食えているのか心配になりますね(*3)。
*2) ゲーム雑誌なのか漫画雑誌なのかよくわからない雑誌。表紙が『パラサイト・イヴ』とかでプレステ全盛期なのに毎回『風来のシレン』のページがあったりした。
*3) パンとかね。

 久しぶりに新刊だからありがたいのですが、南極にいると当たり前ですがAmazonの荷物受け取れないので、電子版でないと買う意味がありません。電子版出してくれるかな。ヒコロウ、電子版があるの、合作の『ジークンドー』しかないのですよね。Amazonだと。

 とはいえ電子版があるにしても、ダウンロードできるのは昭和基地だけ。みずほ基地やドームふじ基地への内陸旅行に出てしまえば、インターネットも使えず、電子版のダウンロードもできません。わたしは9月半ば〜10月半ばと、11月〜2月に内陸旅行に出るので、その前に電子版発売してくれないと。紙版と電子版ずれるのよくあるけど、あれ勘弁していただきたい。

 さて、というわけで今回は内陸旅行で直面する危険地帯について書いていきたいと思います。すごい強引だが、珍しく序文の無駄文から繋がったような。

「いつでも死ねる場所」として知られる南極は単純に寒いというだけで死を与えるに値するのですが、南極特有の地形がそれに組み合わさると、よりその危険性が高まります。



以下、危険地帯を4種類に分けてみました。


  1.  - 割れている:クラック、タイドクラック、クレバス、ヒドンクレバスなど
  2.  - 水が溜まっている:パドル、シャーベットアイスなど
  3.  - 凍っている:裸氷帯など
  4.  - 形がおかしい:プレッシャーリッジ、サスツルギ、ドリフト、ウインドスクープなど


1. 割れている


 クラック、クレバスといった「割れている」地形は非常にわかりやすく、その危険度がわかりやすい危険地形です。


 どちらも海氷・雪氷上に生じた裂け目のことを指します。山だと小さい指や手が入る程度の割れ目をクラック、人間が入る程度のものをクレバスと大きさで分けているようですが、南極だとそういうわけではなく、大きなクラックもあります。どう使い分けているのかよくわかりませんが、海氷上だとクラック、積雪(氷床)上だとクレバスと使い分けているパターンが多いように感じます。正しい使い方なのかはともかく。

 海氷上のクラックのうち、潮の満ち引きによって生じるものをタイドクラックといいます。大きな裂け目になりやすく、雪上車でも足を取られたり、落下の危険性もあります。

→海氷安全講習|昭和基地NOW!!
(http://www.nipr.ac.jp/jare-backnumber/now/back51/20100304.html)

 こうしたクラック・クレバスは上を通らないのが最適なのですが、移動のルートによってはそうも言っていられない場合も多々あります。通らなければいけない場合、重要なのは「割れ目に対して直角に渡る」こと。斜めに渡ると落ちやすくなり、危険です。また、道板と呼ばれる木の板(*4)を渡して重量を分散させることも重要で、雪上車が渡る場合でも道板を渡す場合があります。
*4) 燃えることを除けば、耐寒性に優れた高強度の素材である木材は南極でもっとも優れた素材で、建物や車両にも使われる。


 とはいえそれが可能なのは、あくまで見えている割れ目。積雪が上に薄く被ってしまったクレバスはヒドンクレバスと呼ばれ、察知が非常に難しくなります。配られた資料では「大陸旅行では最も注意しなければならない」とか書かれているんですが、どうせいいうねん。


2. 水が溜まっている


 水溜まりです。

 海氷の上の積雪の重みで、海氷が沈んだとき、そこに割れ目があると海水が染み上がってきます。こうなると積雪がどろどろとしたシャーベット状になってしまい、雪上車が上に乗ったときにキャタピラが嵌り、動けなくなります。このような地形をシャーベットアイスと呼びます。

 また、夏期間に強い日射にさらされると、海氷上に溶けた雪によって水溜まりができることがあります。これはパドルと呼ばれ、やはり雪上車の足を取るほか、海氷下まで穴が通じている場合は底なしとなっており、雪上車がそのまま沈んでしまう場合もあります。

 単に水が溜まっているだけとはいえ、下が不安定な海氷となると非常に危険なのですが、水が溜まっている以上、色が海氷と違っているので、水が溜まっていない場所を通るのがベストです。




3. 凍っている


 凍っていれば滑る。これは日本でも起きる現象で、それが南極でも危険なことはわかりやすいでしょう。

 さらに凍っているがゆえに起こる南極特有の事故をあげてみると、橇牽引時の衝突がありえます。雪上車は内陸旅行に向かう際はその準備作業のときに、ワイヤーで2トン以上の重さの橇を引いていますが、氷が露出している裸氷帯の上を通ってしまうと、橇が勢いを持って雪上車に衝突してしまうことがあり、大変危険です。これも凍っているところを通らないのがベストです。南極の危険地帯の対処ってこんなのばっかりですが、よく考えるとどこでもそうか。





4. 形がおかしい


 形がおかしい程度で文句はつけないでほしい、と農家の方なら思うかもしれませんが、形の影響がもろに出てくるのが南極。


 日本では、雪というのは穏やかなものです。しんしんと夜半から降り続けた雪は、どこまでも続く雪原を作り出し、一歩踏み出せばそこに足跡を受け入れます。
 が、ここは南極。雪は降り積もるものではなく、押しつぶされ、流され、吹き飛ばされてくるものなのです。低温で雪氷は塊、決まった方向から吹いてくる風は風紋を形作ります。サスツルギはこの風紋が大きく発達したもの。雪上車でその上を走行しようものなら、車両が傾き転倒しかねません。基本的には通らないのがベストですが、通らなくてはいけない場合は例によって垂直に超えます。

 また、障害物が存在しているとドリフトという盛り上がりが障害物の左右から後方にかけて形成され、抉られたようになった部分はウィンドスクープとなり、非常に不便な障害物となりえます。


 プレッシャーリッジは潮流によって海氷がぶつかりあって形成された小高い丘のようなもので、単純に障害になるのみならず、砕けた箇所から水が染み出し、パドルやシャーベットアイスの原因となります。



 以上、今回はこのように南極で脅威になる地形をまとめました。基本はすでに書いたように、

  • ・危ないところは渡らない
  • ・渡らなければならないなら、その地形に対して垂直に渡る

の2点を押さえておくことが重要となるわけですが、その前にその「危ないところ」を発見しなければならないわけで、それが最も難しいわけです。ちくしょう。すまん罵倒が出た。

 頭で書いた通り、今後内陸旅行に出る機会が二度あるので、そのあと帰ってこなかったら死んだと思ってください。今回は以上です。

2018年7月29日日曜日

観測隊/情報発信

 朝起きたら小さいシーツのようなものが足元にあって、「シーツが分裂して新しいのが生まれたか」と思ったら白い服でした。な……何を言っているのかわからねーと思うが、おれも何をされたのかわからなかった……。催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。

 どうやら寝る前に洗濯物を畳んでベッドの上に置き、それを忘れたまま寝たようです。それ自体はわりとよくあるのですが、今回は衣服が綺麗に畳まれた状態を保ったままだったので、新たなシーツが誕生したのかと思いました。脳は正常です。

 さて、ミッドウィンターが終わり、極夜も明け、忙しい時期が続いているわけですが、極夜の間にミッドウィンター祭以外に集中して行なっていることがありました。

 それは南極教室と呼ばれる、日本の学校とビデオ接続して昭和基地を紹介する情報発信広報活動です。
 また、南極中継と呼ばれる、学校に拘らない場所との中継もここのところ行われています。先日は静岡の静岡科学館科学茶房と中継があり、出演させていただきました。

 こうした活動は特に極夜時期のみ行っているわけではありませんが、極夜の期間は外での活動が少なく、逆にいえば他の時期は観測・設営活動に精を出さなくてはならないため、しぜんとそれ以外の活動がこの時期に多くなるわけです。

 今回はこの情報発信について書いていきたいと思います。

 さて、まず南極観測隊からの情報発信としては、主として3種類のルートがあります。


  1. 南極本部または国立極地研究所が発信元となって行うもの
  2. 同行記者による取材
  3. 隊員個人のSNS等による情報発信


1) 南極本部または国立極地研究所が発信元となって行うもの
 南極本部や極地研が公式に発表するものですが、

  • 重要な情報に関する報道発表
  • 公式ホームページでの発表・個別の機構及び雑誌等への定期掲載
  • 南極教室・南極中継・南極授業

が主としてあります。

 重要な情報に関する報道発表というと、たとえば南極の氷床下に埋まっていた謎の遺物を掘り返したことで目覚めた物体が隊員たちに寄生して暴れまわり始めた、だとかが思いつきますが、それ以外にも、昭和基地に接岸した、というような毎年行われることでも重要な情報として報道発表に回されるものもあります。
 注意点としては、これらの報道発表する予定の情報は、報道発表が行われるまえに(後述するSNSなどで)個人で発信してはいけないということです。発信自体は可能ですが「先にしてはいけない」のです。

 実際に個人で発信した場合にどうなるかは伝えられていませんが、たぶん昭和基地引き摺り回しに処さるか鋸引きだと思います。なのでThe thingとかブリザーガ、ジャムなどが迫っている状況で自撮りして「昭和基地壊滅なうw」(*1)となどとTwitterに投稿することはできず、隊長から極地研へ、極地研から南極本部へ、本部から報道機関へ、機関から公表されたのを確認してからようやく投稿できます。
*1) そういえばなうって聞かなくなったな。

 公式ホームページでの発表や個別の機構及び雑誌等への定期掲載に関しては、どちらも極地研広報室を通して行われます。公式のものとしては、
→南極観測のホームページ
→昭和基地NOW
です。ここに隊員が記事を寄稿する場合、基本的には極地研広報室から隊長・庶務経由で依頼があり、隊員が執筆、隊長・庶務に戻してから広報室を通って掲載されます。
 これ以外の媒体に掲載される場合でも基本的にこの流れは同じで、極地研広報室を経由してもらわないと掲載はできません。なので依頼がある場合は一度極地研へ打診してもらい、そこから南極本部で検討したのちに依頼を受けるかどうかが決定されます。

 南極教室・南極授業・南極中継はTV会議システムを利用したリアルタイムでの中継システムです。


「南極や昭和基地のことを紹介する」「リアルタイム中継である」「一般の人間に向けて発信する」といった点は共通ですが、違いとしては以下の通りです。


場所対象主たる発話者時期
南極授業派遣教員の学校学生派遣教員
(夏季同行者)
南極教室隊員に関連した学校学生越冬隊員越冬
南極中継科学館
サークル会場など
団体関係者
参加聴衆など
越冬隊員越冬

 上の表の通り、南極教室と南極授業は、場所が学校であり、対象が学生であるという点は共通です。違うのは夏隊同行者である現職派遣教員によって行われるか、それとも越冬隊員によって行われるかという点です。



 南極授業のほうは、夏時期は外に観測に行っていることが多かったのでよく知りませんが、南極教室は相当のコストをかけて行われています。具体的には、

  • ビデオカメラなどの本格的な機材を用いての中継
  • MCのほか、ディレクターやタイムキーパー、AD、照明係の存在
  • ちゃんと台本がある

などです。対象が若い学生だからかしっかりしていますが、そのぶん自由度が低いというか、枠がきっちりしすぎている感がないでもないです。



 一方で南極中継はというと、こちらは、

  • iPadなどを用いた簡易的な中継
  • 大型機材を使わず、授業でもないので最低限の人数で可能
  • 台本がない場合があり、MCの裁量が大きい

といったところ。



 上のように書いてしまうと、中継のほうはものすごくいいかげんにやっているように聞こえてしまいますが、最低限の人数で簡易的な装置を使うということは動きが軽く、コードという物理的な制約のあるビデオカメラでは行けない場所、たとえば外の広場から中継を行うこともできるということです。



 また、台本がなくMCの裁量が大きいため、時間の使い方も中継先の状況や実際の進行に従って決めることができ、内容もそれぞれの開催場所に合わせて決定することができます。南極教室はある程度の大枠が決まっているため、何度も見る人がいたら途中で飽きられてしまうでしょう(*2)。そういうわけで、個人的には南極中継のほうが好きです。楽だし。
*2) 「おれは南極教室のために各地の小学校を転々としているぜ」という小学生20年のプロの南極教室リピーターだとかには。


2) 同行記者による取材
 過去には日本新聞社から派遣された同行記者が観測隊に加わっていたことがありました。しかし今回の59次隊では派遣記者はいないので、この「同行記者による取材」がどんなものなのかはよくわかりません。

 ただし今回は「企画提案取材」というメディア関係者の取材による採択枠があり、NHKからの同行者が2人採択されていました。過去の記録を見るとNHKはしばしば昭和基地を訪れ、取材を行ったり、送受信設備を建設していたりしたようです。


3) 隊員個人のSNS等による情報発信
 観測隊員による個人的な情報発信も認められており、本ウェブログ『この星を守るため』もそうした個人情報発信のひとつです。

 さて、個人の情報発信については3つの規制があり、それは、

  • 未公表の公式情報を扱わない
  • 開設しているHP等のアドレスを隊長・情報発信、広報室に告知する
  • 公序良俗に反したり、観測隊の名誉を傷つけてはいけない

というものです。ちゃんとこれに従っているかどうか見てみると、

・未公表の公式情報を扱わない
→そもそも時事ネタをそんなに扱っていないうえに、何かが起きてから記事にするまでが遅いので未公表の情報がない。

 よし、大丈夫。

・開設しているHP等のアドレスを隊長・情報発信、広報室に告知する
→航行中のHPを確認し難い時期とはいえ、通達した。

 よし、大丈夫。


・公序良俗に反したり、観測隊の名誉を傷つけてはいけない


 本日は以上です。

2018年7月14日土曜日

観測隊/夏訓練と冬訓練


 →前回の記事でも触れましたが、六月後半はミッドウィンター祭でした。

 箝口令が敷かれているため詳細は話せないのですが、我々の『円周率は3』という頭の悪さが溢れ出る最年少チームが優勝。結果としてわたしは景品のトートバッグを得て、洗濯物の入れ物として使えるようになりました(*1)。
*1) それまではオーストラリアで買い物したときのビニール袋を使っていた。

 昭和基地はそんな6月だったのですが、日本ではというと、60次隊の夏訓練のお知らせが来ていました。

 →スケジュールの話のときも書きましたが、観測隊は候補者となった時点で、2-3月ごろに行われる冬訓練、6月ごろに行われる夏訓練に参加することになります。これらの訓練、いちおう参加は任意ということですが、ほらなんかこう、あれじゃん、実質強制じゃん、ねぇ、強制じゃん、というアレです。

 今回はこの夏・冬の訓練に関するお話です。

 ちなみに今回使用する画像は、一部以前使ったものの使い回しです。撮った写真が家のPCに入れっぱなしで手が出せないので。クラウドストレージも漁ってみたのですが、いちばん古い画像がsl(*2)のキャプチャでした。なにわけのわからないもののキャプチャを撮っているのだ。
*2) lsというlinuxで非常によく使われるコマンドのパロディであるジョークコマンド。lsは対象ディレクトリのファイル一覧を表示するが、slは機関車を走らせる。いちおう昔は意味があったらしい。


 冬訓練は2月-3月ごろ、長野県のとある高原で5日間かけて行われます。

 冬訓練の目的は3つで、

  1. 観測隊員・同行者候補の相互の理解と親睦を深める
  2. 観測隊員・同行者候補として南極で必要な情報の提供および歴史・運営に関する講義。
  3. 南極での行動・安全に関する理解を深めるため、冬季の寒冷地における野外活動や非常時の技術の獲得。

となっています。昨今はこれらの目的も形骸化しているのではないか、などと囁かれていたりしますが、まぁ大きいのは1でしょう。たぶん。初顔合わせとなる観測隊が5-6人程度でグループを組んで宿泊、野外活動を行なっていきます。

 具体的に何をするかというと、まずは座学で観測隊に関する一般的な話、南極フィールドワーク学概論などもありますが、メインとなるのはルート工作、サバイバル訓練、雪上訓練などに関する行動に関する講義です。

 次に野外活動ですが、大きな野外活動は2つあり、ひとつは二日目の午後に行われるルート工作訓練です。これは宿泊施設近隣の園地で行われます。

 ルート工作というのは海氷上や氷床上に一次的に安全が確保された道を作る作業を指します。


 昭和基地は東オングル島という島の上にあるため、他の島や大陸に出かけるためには、海氷・氷床上を移動することが必要不可欠です。海氷・氷床上の危険についてはホワイトアウトやクラック、プレッシャーリッジにクレバスなどさまざまなものがありますが、これらの詳しい説明はあとに送るとして、今回はルート工作訓練そのものについてのみ説明します。

 訓練ではスタートとゴールのみ印がついている園地内の地図をあらかじめ渡されていて、まずは前日にルートを記入します。
 具体的には、

  1. ゴールに到達するまでの道程を、地図上から見て険しくならない場所、危険の少ない場所を中心に設定する
  2. 道程を複数の直線で区切り、各区切りを標識旗設置場所とする。
  3. 各標識旗設置場所に番号をつけ、前の標識旗設置場所から次の標識旗設置場所の磁方位や相対方位、距離、緯度経度を測る。

という流れでルートが設定されます。たとえば下の図のように。実際はこんな広い範囲をこんな大雑把にルート設定しないし、線の引き方もてきとうだけど、まぁイメージということで。



 当日はこのルートを実際に辿るわけですが、具体的にどう辿るかというと、

  1. コンパスで次の標識旗設置場所の方向を見つける。
  2. 次の標識旗設置場所に向けて(あらかじめ測っておいた)歩数・歩幅から計算される設定距離を歩く。
  3. 到達した場所に標識旗を設置する。
  4. 1に戻る。

となります。GPSで緯度経度を測定したりもしますが、こちらはあくまで補助。メインとなるのは伊能忠敬のように地道な手法なのです。

 グループごとに行うので、旗の設置、方位測定、歩幅による距離測定と分担はできるのですが、それでも予想外に時間がかかり、普通なら一時間もかからない距離を踏破するのに、その三倍以上の時間を要しました。しかも到達地点が予想とけっこうずれる。

 もうひとつは三日目の午前中から四日目の午後まで、丸二日かけて行われる一連のサバイバル訓練です。

 サバイバイル訓練は、

  • テント設営、負傷者の搬送訓練、ツェルトの使用方法などからなる一般的なサバイバル訓練
  • ツェルトでのビバーク体験
  • 雪上歩行、ロープワーク、クレバス脱出訓練などの雪上訓練

 などがありますが、簡単にいえば「荷物を担ぎカンジキを履いて山を歩き、テントを張り、雪の壁で風を避ける」というのサバイバル訓練の主たる内容です。


 実際にこれが役立つかというと、まぁあんまりこんな機会はないわけで、いまのところカンジキも履いていないしテントも訓練以外で張っておらず、雪の壁も作ってはおらず、「この訓練が(南極よりも)寒くて大変だった」というコメントさえある(前次隊のときは寒かったらしい)のですが、どちらかというと非常時の備えのようなところもあるかもしれません。個人的には山歩きがいちばん大変でした。体力なしなので。


 一方で夏訓練ですが、こちらは6月の半ばごろ、甲信越の温泉地の近くで行われます。温泉行きたいだけでは。


 こちらも座学と野外活動の2種類が主で、座学は越冬生活や設営、輸送、情報共有、装備などに関する情報を得ます。

 野外活動は夏季訓練では大きいものはひとつだけで、グループスコアオリエンテーリングというものを行います。
 これは、

  1. 地図を使ったナビゲーションに親しむ。
  2. 組織力を養う。

というふたつの目的に沿った訓練ということなのですが、ようは冬訓練でやったルート工作訓練をもっと簡易にしたようなものです。

 参加者は各班に分かれ、地図、コンパス、チェックボードを持ち、チェックポイントを辿っていくことになります。
 一般的な「スコアオリエンテーリング」というものがどういうものなのかはわかりませんが、簡単にいえば地図から目的地にどう辿りつけばよいか推定し、その通りに動くというだけです。穏やかな野外活動ですね? しかし闘争心盛んな野郎どもしかいないので、グループ間の競争が熾烈になり、最終的にはチェックポイント間を全力疾走することになります(*3)。辛ぇ。
*3) ポイントを稼ぐために「まだいける! いける! 諦めるな!」と松岡修造のノリでみんな走っていった。

 冬訓練と夏訓練はこのように座学と野外活動をふたつの柱としていますが、ほかにもロープワークや救命救急措置訓練など、南極で役に立ったり立たなかったりする技術を習得したり、早朝に起きてランニングをしたり、なんか縛ったりします。


 観測隊・同行者候補の方は、ぜひご参加ください(*4)。
*4) 自分はもういいや。

2018年7月2日月曜日

隊員/気象定常観測の場合


 この[隊員]ページ第59次南極地域観測隊の隊員のうち一部に個人的にインタビューをし、纏めたものです。個人の詳細については深く立ち入らず、内容は、

  • 南極での仕事 :何をするために南極に来たか
  • 南極に来た経緯:どうすれば南極に来られるか

に集約されています。


南極での仕事


 気象観測
 その中でも特に地上気象(温度計、風速計など)を担当。またS17の気象ロボット、雪尺観測なども担当している。

南極に来た経緯


 もともと地球化学科の研究室でフィールドワークに出た経験から、船関係の仕事がしたい、現場に出たい、いろいろな場所に行きたい、という理由で気象庁に入庁した。
 南極観測部に志願したのは、せっかくだから誰も行けないような場所に行きたい、という理由。

南極の感想


 南極はブリザードが吹き荒れ、非常に寒冷な気温となり、風が僅かな時間で大きく変わり、日本では体験できないような現象が起きるから、観測は面白い






管理人より


 南極の観測部門は基本観測と研究観測に分けられます。研究観測というのは基本的に研究者が属して各々の研究を行いますが、基本観測は定常観測やモニタリング観測といった、過去から継続して行われている観測を連続して行います。定常観測を受け持つのが気象庁職員で、越冬隊として5人来ています。今回紹介するのはそのうちのひとりです。

 気象庁の定常観測は単に観測してデータを取得するだけではなく、毎日の予報業務も受け持っており、毎日夕食後のミーティングでは、翌々日までのおおむねの天気や風速などを告知します。天気は言わずもがな重要な要素ですが、なんでもない日に秒速10メートルを、低気圧の接近に伴って秒速20メートルを、時には秒速30メートルを超える南極では、風速の予報は非常に重要で、外出禁止令や注意令も、気象の通報に基づいて行われます。

 今回は珍しいくらいまともな感想をもらいましたが、「地球化学科だったが入庁試験は物理だった」「そんなどうでもいいことは書かないでくれ」「南極では素晴らしい研究者の方々と出会えて光栄」「いやほんとほんと」などというコメントも並列していただきましたのであまり信用しないでください。理髪係なので二度髪を切ってもらいましたが、わたしは信用していません。

 ちなみに彼は先日、つまり南極に来ている間に第三子が産まれました。おめでとうございます。酷いブリザードの日だったため、仮称「ブリ男」という名前が勝手に他の隊員によって名付けられましたが、仮名が通らなくて何よりです。

2018年6月15日金曜日

隊員/越冬隊重点研究宙空圏の場合


 この[隊員]ページ第59次南極地域観測隊の隊員のうち一部に個人的にインタビューをし、纏めたものです。個人の詳細については深く立ち入らず、内容は、

  • 南極での仕事 :何をするために南極に来たか
  • 南極に来た経緯:どうすれば南極に来られるか

に集約されています。


南極での仕事


 ライダー(レーザーレーダー。光を射出して大気の鉛直状態を観測する装置)の保守点検と観測。昭和基地に設置されているライダーのレーザーは気水圏のそれと比べると出力が大きく、世界で5、6台しか存在しない。出力が大きく、波長をチューニングが難しいため、マニュアルで調整しなければならない。

 また、ソフトクリーム係長としてソフトクリームの管理。

南極に来た経緯


 もともと宙空圏のライダーに関連したプロジェクトで雇われており、その流れで南極に来ることになった。明確にどの時点で決まったということはなく、完全に流れ。ライダー関係で人を出したいということになっていたため、いつのまにか決定されていた。実質、社内公募みたいなもの。

南極の感想


 変わり映えしない。






管理人より


 観測系編です。南極といえばオーロラとペンギンという印象を持っている方がほとんどだと思いますが、オーロラは宙空の領域です。

 宙空の主たる重点研究課題はPANSY(昭和基地大型フェイズドアレイレーダー)なのですが、PANSYの保守観測は三菱から選出される隊員が行うため、極地研からの研究観測隊員は保守観測を行いません。

 この方が使うライダーという観測装置は、単純にいえばレーザーを射出し、空中の大気や微粒子にぶつかって戻ってくる反射光(正確にいえば、後方散乱光)を観測することで上層大気の鉛直分布を観測する装置です。レーザーレーダーという名前からわかるとおり、基本的な概念はレーダーと同じで、大きな違いは使用する波長です。レーダーはいわゆる電波と呼ばれる長い波長を使いますが、ライダーは目に見える光に近い短い波長を使います。

 この方とは砕氷船しらせで同室だったので、道中に今回の記事の元となるインタビューを行いました。しらせでは近くにクジラやペンギンの群れやが見えると『十時の方向にペンギンの群れ。泳法はバタフライ』などといったアナウンスがあるのですが、その度に「観測に行かないと」と言って部屋を飛び出し、海氷が近づくと「ワッチ(船上での当直当番のような意味)だ」と飛び出して行ったのは記憶に新しいです。


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Maira Gall