2019年4月1日月曜日

はじめに

  このページはトップに固定されています。

 このウェブログは2017-2019年に行われる、第59次南極観測隊の一隊員による、南極観測隊に関連する内容を非公式に記載したものです。本内容は、概ね以下の4つに大分されます。


  1. 南極そのものに関するもの
  2. 南極観測隊に関するもの
  3. 南極観測隊員に関するもの
  4. その他


1) 南極そのものに関する内容 → タグ:南極
 第59次南極観測隊(以下、JARE59)は、当たり前ですが南極で活動を行います。南極地域の定義は一般に南緯60度以南の領域で、ここから先は日本とは大きく異なる気候や生態系が待ち受けています。それらについて紹介しつつ、実際に南極にいる間は実際の画像を交えて紹介できればと思います。

→南極/南極の気温(2017/11/21)
→南極/環境保護条約(2017/12/20)
→南極/ブリザード(2018/01/04)


2) 南極観測隊に関する内容 → タグ:観測隊
 この内容が(おそらく)メインコンテンツになる内容です。

→観測隊/スケジュール(2017/11/13)
→観測隊/研究観測(2017/11/24)
→観測隊/観測隊構成(2017/11/26)
→観測隊/オーストラリアでの行事(2017/12/01)
→観測隊/砕氷船しらせ(2017/12/08)
→観測隊/日本南極観測隊の歴史(2017/12/11)

 南極に関する記述がある本やウェブサイトはすでに十分な数があるのですが、その大部分の内容は南極の自然気候や生物、研究活動、探検歴史などに関するものです。しかし南極についてではなく、日本の南極観測隊そのものに関しては同じ研究者に対してもあまり知られていません。

 JARE59でどれくらい期間、何人くらいの人間が、どのような活動をするのか。
 JARE59ではそのためにどんな準備をして、どんな訓練を行い、どのような行程を経て活動をしていくのか。
 JARE59は何を目的としているのか。

 そのようなことを記述していきたいと思います。

 現地での実際の活動や、それに関してすっごーいたーのしーといった内容は基本的には記載しない予定です(*1)。というのも、自分は今回が初めての南極で、右も左もわからないし、失敗することもあるだろうし、何もかもうまくいかず、前後不覚になり果てることもありえるわけで。要は現場で実際にうまく行くかわからないので、そういった内容は可能な限り書かないというリスク軽減だと思ってください。
*1) なんかすごくすっごーいわーいたーのしーになったら書くかもしれません。

 それと本ウェブログは基本的に観測隊の最新の活動内容をお届けするものではありません。南極観測隊の活動が国家事業の一種であり、大本営の報道が優先する必要がある場合があるためです。非公式が先に発表するとどうなるかはよくわかりませんが、もしかするとわたしの首が飛ぶかもしれません(*2)。
*2) うっひょー。

 例えば南極に突如開いたゲートからのちにジャムと呼ばれる異星人の飛行機が飛び出してきたり、遊星に付着していた物体Xによって基地が破壊されてどうせ死ぬなら道連れだという勢いで頑張っていたとしても、そういったレベルの情報はかなり重要なので公式発表(*3)があるまでの間はこちらから発表するとはできません。
*3) そういう情報が流れたら戻ってきた隊員の血液が高温に晒された途端に正体現さないかどうかとか、L型アミノ酸をきちんと消化できるかどうかをちゃんと確認してください。

 最新の内容や南極観測隊に関するまともな情報が欲しければ、
→国立環境研究所 南極観測のホームページ
→昭和基地NOW
 などをご覧ください。

3) 南極観測隊員に関する内容 → タグ:隊員
 自分が高校生のとき、とある公演をした南極観測隊経験者の方は「南極に行きたければ金持ちか研究者になれ」と言いました。残念ながらお金持ちには向いていなかったので(*4)研究者になり、結果的には南極に行くことになったので、個人としては方針はおおむね正しかったわけですが、実際のところ観測隊の中で研究者が占める割合はそれほど多くありません。JARE59の観測隊にはいろんな人々がいます。
*4) はー金が欲しい。

 そうした雑多な人物を紹介していくわけですが、年齢とか血液型とか家族構成とか趣味とか弱点とか性癖とか黒歴史とか、なんかそういう他人の個人情報とかわたくしわりと関心がないというかどうでも良いのでしません。

 紹介するのは、

  • 南極での仕事内容:何をするために南極に来たか
  • 南極に来ることになった経緯:どうすれば南極に来られるか

に絞りたいと思います。というのも、これらの情報が新たに南極に来たいと思っている人々に役立ちそうだと思ったからです。

4) その他 → タグ:その他
 それ以外の内容です。

→その他/もふもふモフモフ(2017/11/24)
→その他/宇宙よりも遠い場所(2017/12/31)


 以上の内容を適宜更新していくことになります。隊員のSNSの情報発信は公序良俗に反するものや観測隊・南極観測の名誉を傷つけるものは認められないことになっていて、なんかこの「はじめに」を書いた時点でだいぶ怪しい気がするのですが、突如このブログが消えたらそういうことだと思ってください。

 遅れましたが、このページを含む本ウェブログの主な記述者は越冬の一般観測研究の山田です(*5)。本ウェブログはの2017年11月からJARE59越冬隊終了の2019年3月までを目標にのろりのろりと更新していく予定です。
*5) この「越冬」だとか、「一般観測研究」だとかについてもおいおい説明できれば。

2018年11月5日月曜日

観測隊/昭和基地の娯楽


 Hunter x Hunterの36巻がいつの間にか発売されていました。

 前に書いたと思うのですが、南極行っている間に発売されないと予想したものとして、

  • Mount&Blade2
  • 氷と炎の歌の続刊
  • HunterxHunterの続刊

があったのですが、だいぶん裏切られました。しかし『M&B2』と『氷と炎の歌』はど安定っぽくて嬉しくない(*1)。
*1) 『氷と炎の歌』に関しては、
という流れなので帰るまでに出版されないことはほぼ確定である。

 即座にWikiとかで訳が進む『M&B2』と違って(貴様の頭蓋骨で祝杯を挙げてやる)、小説の『氷と炎の歌』は出版されてから訳本出るのに1-2年かかるので切実です。というかもうだいぶん時間経っているから話忘れてしまった。
 そういえば、いちおうドラマ版『ゲーム・オブ・スローンズ』も前半見てたんだけれど、途中で止まっているのですよね。アレ、結末が違うんだっけか。殺陣がうーむなのが引き摺って見なくなってしまった。『GoT』に限らず、海外の殺陣はあんまり好きじゃないのが多くて、たとえば『ペイルライダー』でイーストウッドがかっこよく棒くるくるして敵を倒すシーンとか「はいかっこいいね」で終わってしまって素敵じゃない。『ボーン・アイデンティティー』のCQCとかは好きなんですが。コメディだけど『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』とかも殺陣すごい好きなんですよね。あのくらいはちゃめちゃでいい。すごいな、光速で話が逸れ続けていく

『氷と炎の歌』は〈王殺し〉のジェイミー・ラニスターがいちばん好き(あとシオン・グレイジョイ)で、初登場時から7歳の子どもを窓から投げ落として半身不随にするとか、ザ・クソ野郎なのですが、なんだろう、シオンもクソ野郎だし、アレだ、クソ野郎が好きなんですね。わたくし。ブライエニーと旅するところがとても良い。
 ブライエニーは原作の作中だと醜女扱いされているのですが、明確にどう醜女かというと大柄で男性的な見た目というだけ(だったはず)で、明確に「醜女」というかんじがしないというか、文化的な「美人ではない人」なんですよね。だからドラマ版のグェンドリン・クリスティーが美人過ぎてもあまり間違っていないわけで。
 佐藤賢一の『王妃の離婚』でジャンヌ・ドゥ・フランスが「足萎えのジャンヌ」として不美人の代表みたいな扱いだったけど、結局当時の歴史的なバックグラウンドからだと不具の人間が過剰に石を投げられる(小説的には〈蜘蛛〉ことルイ11世に鼻が似ているというのもあるけど)ということで貶されていた感がないでもなく、ブライエニーもそんなかんじなのかな、と思いました。

 あとアリアに剣の稽古してくれるシリオがけっこう好きだったのですが、ドラマ版だと時間稼ぎするところでガチガチの重装備の〈王の盾〉相手に木剣で突きをして折っちゃうって、ブレーヴォスの筆頭剣士はボケてるの? いや原作描写として確かにそんな感じだったかもだけれど、もっとこう時間稼ぎする感覚で、戦闘してほしいというか。
 ついでにジャクェン・フ=ガーとか顔がまともすぎるというか、もっとこう変態チックなイケメンを期待していたんだけれど、普通のイケメンでは。なんだここは、イケメン畑か。いや変態が好きなだけか。変態とクソ野郎が好きとか未来が見えない。

 例によって前置きでだいぶ文字数を消費しましたが、なんだっけ、このブログは。記憶が。

 もうすぐドームふじに行くため2ヶ月半ほど留守にする(その後は帰路になる)ので今のうちに記事を一本くらい書いておこうと思ったのですが、まともな内容を書こうとするといちいち資料で確認するのが面倒なので適当に書ける内容を探しに我々はアマゾンの奥地へ向かった。

 今回は昭和基地の娯楽に関するお話です。
 娯楽といっても人によってはさまざまで、たとえば松永久秀は蓑虫踊りを見るのが趣味だったそうですが、今回は「専用の道具・設備が必要で、それに関する設備が存在するもの」について紹介します。


インドア


 ほとんどのものは管理棟二階のバーにあります。

ビリヤード(キャロム)


 一般的なビリヤードといえば四ツ角に穴の空いたポケットだと思いますが、昭和基地のバーに備え付けられているのは穴のないキャロムです。キュー、ボールなど必要な器具も十二分に存在しており、対戦相手がいればいつでも楽しむことができます。

 59次では四つ球ルールがメインで大会が行われていました。現在は第五回大会が開催中です。はぁ? わたしは一回戦で負けましたが? 何か? 問題でも?



麻雀


 南極といえば麻雀。第一次南極地域観測隊の越冬隊長である西堀栄三郎が麻雀にキレ散らかしていたことはご存知かと思います。
 雀卓はビリヤード台の脇に存在しています。もちろん牌も揃っており、台の真ん中には賽子をこう……良いかんじにする部分もあります。

 鳴くとか、最初から輸血しておくと有利とか、藤堂が平然とやるとかは知っているのですが、細かいルールはよく知らず、うまく解説できません。なんか南を絡めると点数が上がるとか上がらないとか逸話も聞いたような気がしますが、採用されているのかいないのか。



ダーツ


 ビリヤード台を挟んで麻雀台の反対側には電子ダーツボードと点数表示用のディスプレイがあります。

 これも20点の3倍のところに毎回当て続けるとすごいということくらいしかルールは知りませんが、プレイヤーを登録して点数の記録をつけたりすることなどもできるようです。



パチンコ


 電子ダーツのディスプレイ隣にはパチンコ(パチスロ?)台が3つ並んでいます。

 が、賭け事とかガチャとか基本無料とか嫌いなので例によってルールがよくわかりません。ビル傾けて玉を穴に入れれば良いのでしょうか。まるで亡霊のダンス……浮遊し乱舞するだけ……!




音楽


 ミュージコゥは万国共通です。バーにはギター、ベース、ドラム、ウクレレ、マラカスなどがあり、腕に自信があるならばミッドウィンター祭でバンドを組んだり、感極まって客席にダイヴしたり、音楽性の違いで解散することができます。



卓球

ピンポン球は異常に大量にあり、おかげで先日の誕生日会では概要をここに書いたら日頃の行いのせいも含めて現実を疑われそうになるピンポン球を用いたシステムを完成させることができました。

 ラケットに関しては怪しいですが、ネットはあります。それにラケットが足りないのであれば、理系らしくキムワイプ(*2)を使えば良いのです。
*2) 日本製紙クレシアから販売されている紙ウエス。理系分野ではよく使われているせいか、箱をラケット代わりに使う「キムワイプ卓球」なるものが行われている大学もある。



ボードゲーム


 バーにはボドゲも大量に。将棋、オセロはもちろんのこと、『汝は人狼なりや否や』(*3)『どうぶつしょうぎ』『ジェンガ』などメジャーからマイナーなものまで取り揃えております。
*3) 推理・トークゲーム。十数年前にオンラインで流行し、多数のクローンが誕生した。一部のMMORPGでもチャットを使って行われていたりもする。

 アナログ版『人狼』って初めて見たけどこういうかんじなのね。絵も綺麗でけっこう好き。




映画


 管理棟3階の食堂隣、サロンには長年の堆積物である映画が多数取り揃えてあります。中にはかなり古いものも。



読書


 昭和基地には多数の蔵書がありますが様々な場所に散っており、食堂には南極関連の書物が、庶務室には小説や専門書などが、洗面所や居住棟には漫画が揃えられています。越冬中にすべての本を読み終えることは困難でしょう。





アウトドア


 ブリザードの最中に外歩きをするだけでエクストリーム散歩になる昭和基地ですが、平時に外遊びができるような道具ももちろん取り揃えております。




釣り


 以前に→南極/漁協と釣りと生態調査で紹介したように、南極での釣りは一般的な娯楽です。小さいものではショウワギス、大きいものだとライギョダマシ捕獲に向け、漁協係は日々邁進しています。



球技


 球技と一括してまとめてしまいますが、一般的なスポーツに使用されるようなボールは基地に揃っています。いつでも遊びたい放題。あと必要なのは友だちだけだ。



スノーボード


 なんか写真が酷いですがスノーボードはもちろんあります。ソリも。

 残念ながらリフト設備はありませんが、天然のスロープで滑走は可能です。上りは歩けば良い運動になるでしょう。



筋トレ


 己を鍛えるという概念から対極の存在なので自分はほとんどやりませんが、隊ではわりと人気コンテンツな筋トレです。ウェイトトレーニングの装置は各種取り揃えております。




 というわけで今回は昭和基地の娯楽(道具を使うもの)を紹介しました。なんかルールがわからんばっかり言っていた気がするが。

 わたしの場合はよくビリヤードをやってるのですが、数日後から2ヶ月半ほどドームふじ基地への内陸旅行に行ってくるので玉撞きができなくなります。帰ってきてからはしらせでの帰路に移ります。日本だとやる機会があるかなぁ。

 帰路は往路と同様、メール経由でテキストオンリーの記事は更新できなくもないので、ちょろちょろと更新するかもしれません。ではまた2ヶ月半後。本日は以上です。







2018年11月3日土曜日

観測隊/車両越冬隊員の場合


 この[隊員]ページ第59次南極地域観測隊の隊員のうち一部に個人的にインタビューをし、纏めたものです。個人の詳細については深く立ち入らず、内容は、

  • 南極での仕事 :何をするために南極に来たか
  • 南極に来た経緯:どうすれば南極に来られるか

に集約されています。


南極での仕事


 雪上車の整備。


南極に来た経緯


 所属している企業が雪上車の製造会社で、社内選考を経て参加することになった。南極に行けるからこの会社に入ったようなもの。
 あまり大きな選考というわけではなく、「行く? 2、3年後に行こうか? じゃあ準備しよう」というような流れとのこと。


南極の感想


 来てみたら想像と違った。
 ここは厳しすぎる。







管理人より


 設営部門、車両担当の方です。南極での車両は大きくわけて二種類で、ひとつは日本でも一般に使用されているようなトラック(装輪車)で、夏の作業時期に使用されています。もうひとつがキャタピラの雪上車で、夏の内陸観測と長きに渡る冬の輸送・観測・旅行活動に使用されます。この方の指す「車両」というのは後者です。

 現在の昭和基地にある雪上車は、PB300という海外製品が僅かにあるのを除き、大原鉄工所製です。なので車両担当の隊員は大原から派遣されてきます。逆にいえば、もし南極に行きたい場合、(毎年1人程度という狭き門とはいえ)大原に行くことが近道といえるようなそうでもないような。

 先日のみずほ・ドーム中継点旅行では3台の雪上車で向かったのですが、その3台がそれぞれエンジン関係のトラブルで走行不能な状態となりました。自分はわりとパラッパラッパーなのでヒートガンでチューブ温めるくらいしかできなかったのですが、この人は車両担当で真面目なので冷や汗どころではなかったでしょう。帰ってきたときには1.5kg痩せていたそうです。

「わざわざこんなに寒いところに来たがるなんて、研究者の方々はおかしいのでは?」としきりに言っていましたが、話聞いてみるとこいつも南極に来たがっていたんじゃねぇか。


2018年10月18日木曜日

観測隊/みずほ・あすか・ドームふじ基地


 9月13日から10月13日までおよそ1ヶ月間、内陸に行ってまいりました
 更新がなかったのはサボっていたわけではありません。おかげさまでアヴローラとか取れなかったわけで。

 今回の旅行はみずほ・ドームふじ間の中継地点を目指したもので、具体的な行程は下図の赤線のとおり。


 中継地点という場所はその名の通り、みずほ基地(上図:Mizuho)とドームふじ基地(Fuji)の中間にあります。長さにしてみれば数百キロ、舗装された道を車で駆けるのであれば1日での踏破も不可能ではない距離ですが、今回は片道15日を要しました。



 3日ほどブリザードで停滞した以外は特に足踏みすることもなくたどり着けたのですが、停滞しているときはハイスピードバーテンダーアクション『VA-11 Hall-A』(*1)をプレイしていました。
*1) ベネズエラのSUKEBAN GAMESによる、研究職になる前にドロップアウトしてバーテンダーとなった主人公ジルが政府直轄のバーでドノヴァンに合成ビール(大)を叩き込みながら家賃に苦しむADV。

 一回家賃払えなくて追い出されました。個人的にはいろんな意味で現実が追いついてきそうな話なのだ本当に。
 ここ数年ADVからは遠ざかっていたけど、南極来るまえに『Oneshot』(*2)やってすごく好きになったりだとか、油断できない。
*2) ねこがかわいい。

 以前にも書いた通り、現在日本で主に稼働している唯一の基地である昭和基地は南極大陸上には存在しておらず、大陸そばの東オングル島上に存在しています

→観測隊/昭和基地
https://jare59.blogspot.com/2018/02/blog-post.html

 しかしながらかつて日本は、無謀にも大陸上に進出しようとしていましたのです。
 安全な沿岸ではなく、凍てつく吹雪の内陸へと登ろうとしていたのです。
 みずほ、あすか、ふじ——凍える南極の大地には程遠い名をつけ、この冷たい大地で生活をしようとしていたのです。



 今回は内陸旅行と昭和基地以外の基地のお話です。


□内陸旅行に行く前に


 2017年度版『南極野外行動マニュアル』によれば、野外行動は大きく分けて夏期と冬期に分けられます。

 ドームふじ旅行を除けば比較的近距離、かつ温暖な夏期と違い、冬期の内陸旅行には極寒、暗黒の日々、常なる危険、そして僅かな報酬、僅かな報酬! といった20世紀の冒険家、アーネスト・シャクルトンが述べたとおりの危険が付き纏います。

 夏期であればヘリコプターや航空機(DROMLAN)といった航空機も活躍しますが、冬季の内陸のみずほ基地/中継拠点/ドームふじ基地などの観測地点へ赴く際、主な移動手段となるのは重量11.5トンの大型雪上車SM100です。



 -60度までの気温に耐える(*3)この雪上車は移動手段であると同時に食堂であり、宿泊場所でもあります。
*3) まぁ-60度以下に下がったりもするのだけれど。そうなったら停滞 or Dead。



 時速およそ8km程度の速度で進むSM100の参考燃費は4.4L/km(*4)。たとえば1日60km
ほど進むのなら、約260Lの燃料を必要とします。SM100の燃料容量は250Lなので、毎日(では足りず昼と夕の2回)の給油が必要です。そのためには燃料を橇で引いて行く必要があります。
*4) 4.4km/Lではない。

 橇は複数種類がありますが、主として使われるのは2トン積み木製橇(2トン橇)というものです。約200Lの燃料ドラム缶が12本(約2.4トン)積むことができるこの橇は第2次隊から使用されている伝統的なもので、燃料を運ぶほかには物資の輸送などにも使われます。



 橇を引き、燃料を積み、食料を携えた雪上車は内陸へと向かうわけですが、内陸に限らず基地外へ出るときは基本的に決まったルートをとります。



 このルートは基本的に風向きに垂直で、(曲がり角などを除くと)一定間隔でなんらかの標識を立てて目印とします。過去は500mごとであったり、標識にドラム缶を使っていたりもしましたが、現在は2kmごとに赤旗を立てるのが一般的です。



 このルート旗を辿り、内陸へと進んでいきます。




□みずほ基地


 みずほ基地は昭和基地南東270kmの氷床上(南緯70.7度、東経44.3度、標高2244m)に存在しており、昭和基地以外の内陸3基地の中でもっともアクセスしやすい基地であるといえます。片道距離はおよそおよそ1週間程度。

 2000mを超えた標高ですが、南極氷床としてはまだ道半ば。氷床斜面に存在するみずほ基地は斜面滑降風(カタバ風)の影響を強く受け、常に10-20m/sの東風が吹き続けています。

 既に建物はすべて雪の下に埋まっており、立ち入りは禁止されています。



 拠点そのものとしては1968年から使用されており、明確にみずほ観測拠点として設定されたのは1970年のようです。1971年にはプレハブの冷凍庫を転用した居住棟が作られ、長期滞在が可能となりました。その後も徐々に新規の建物が追加され、1978年にみずほ観測拠点から「みずほ基地」として改称されます。
 しかしながら老朽化が進み、1986年に唐突に無人化が告知され、基地は呼吸を止めました。1999年、立ち入り禁止。

 現在は雪の下で寝静まっています。二度と目覚めることはないでしょう。

年平均気圧:732hPa
年平均気温:-32.3度
年平均風速:-11m/s
---> 状態:埋没

 

□ドームふじ基地


 ドームふじ基地は昭和基地から1000km南の氷床上(南緯77.3度、東経39.7度、標高3810m)に存在します。順調に向かって、片道およそ20日。

 他の内陸2基地とは異なり「ドーム」と付きますが、これは基地が傾斜が緩やかなドーム状の氷床の真上に存在していることに由来するようです。南極氷床上ではドームAに次ぐ高度ですが、基盤の高さはわずか800m程度。その上に乗っている3000m超の氷厚に対し、2007年には3035mまでの氷床深層掘削に成功しています。

 1994年に食堂棟、避難施設などの建物の建築が開始され、徐々にその数を増やし、2003-2004年には越冬も行われました。しかし現在は建物のほとんどが雪の下に埋没しています。

 最暑月の12月でも月平均気温は-33度程度。極寒の5月では月平均で-66度に達し、-79度の最低気温を記録した日さえあります。
 しかしながら氷床斜面上ではなく、氷床の上に出てしまっているために斜面滑降風(カタバ風)の影響を受けないため、風は穏やかで、気温がより高いものの風が強い場所より暖かく感じる場合もあります。

年平均気圧:598.4hPa
年平均気温:-54.3度
年平均風速:5.8m/s
---> 状態:埋没



□あすか基地


 あすか基地は他の2基地とは異なり、クイーンモードランド東部のプリンセス・ラグンヒルド海岸から120km内陸に入った氷床上にあります。

 南緯71.5度、東経24.1度、標高980m。1984年に建設が開始され、当時はあすか観測拠点と呼称されていました。1987年には越冬が開始されていましたが、1991年から越冬が中断。現在はほとんど人が立ち入らぬ地点となり果て、他基地と同様に建物は雪面下に陥落しました。

 斜面上に存在するため、常に風が強く、また海岸からも遠くないため、低気圧の影響を強く受けます。

年平均気圧:871.5hPa
年平均気温:-18.3度
年平均風速:12.6m/s
---> 状態:埋没


 以上の通り、昭和基地以外の基地は現在雪の下に埋もれ、休止状態にあります。羨ましい。

 今回の旅行で訪れたのはみずほ基地だけですが、また11月7日からの旅行で同じ道を通ってドームふじ基地へ向かうことになります。今度は2.5ヶ月くらいです。意味わかんねぇな。本音が出た。



 とりあえず死なないようにしたいです。

2018年9月12日水曜日

観測隊/輸送の手引き

 わたくし昭和(*1)最後の生まれなので、誕生日過ぎると平成の年号=年齢になります。今なら平成30年だから、誕生日前は29歳、誕生日後が30歳という形。自分の年齢か年号を覚えておけばどちらかを保管できるのですが、来年からは平成が終わってしまうので不便になるなぁ、などと思っていたら今年の時点で年号覚えていたのに自分の年齢を間違えていた
*1) 30年くらい前はそういう年号があったという伝説がある。

 誕生日後に30歳になるのに、もうすでに30で誕生日後は31になると思っていました。書類書いてて指摘されて気づいた。危ねぇ。4月の誕生日会のときに「30になりました」と言ったような気がするので、半年近くは間違えていたような。南極にいてあんまり書類を書く機会がなくて良かった。

 さて、今日(9月12日)から1ヶ月間、みずほ基地とドームふじ基地の間にある中継拠点という場所に行く予定だったのですが、悪天候につき1日順延と相成りました。おかげでエクスペリエンスのホラーADV『死印』の続編『NG』(*2)が買える——と思いきやPS storeに出てこない。なぜだ。更新タイミングが日付変更ではないのか。
*2) ヤンキーが都市伝説を殴るADV。

 とりあえず1日時間ができたため、今回は昭和基地以外の基地について書きたい——と思ったけれど、どうせなら実際行ったあとのほうが写真があって良さそうな気がしたのでこちらも順延で。

 昨今第一便、託送便といった輸送の話があったため、今回は輸送に関して書きたいと思います。

 第一便というのは砕氷船しらせによって輸送した荷物のうち、優先して越冬隊員に届けたいものを昭和基地近くまで来てからヘリコプターで輸送するもので、12月下旬に日本から物資を少量ながら受け取ることができます。

 これよりも先んじてとなると、→観測隊/スケジュールでも触れたDROMLAN航空機があります。

→昭和基地NOW!!
2015年11月20日 思いがけないプレゼント

 ただしDROMLANによる輸送は個人の荷物はあまりありません。

 南極という、人間の居住圏からは大きく離れた場所に物を届ける主たる役割を担うのは、やはり砕氷船しらせなのです。
 というわけで主として砕氷船しらせでの物資輸送の流れを説明します。

 しらせでの輸送の流れを簡単に書き出すと、

  1. 梱包・計量・マーキング
  2. 物資集積、積荷リスト作成/提出
  3. 貨物入庫報告書作成/提出
  4. 埠頭倉庫での搬入・検数・立会/しらせへの積み込み

となっています。

1. 梱包・計量・マーキング


 観測物資にしろ、設営物資にしろ、私物にしろ、まずは物資を梱包して計量、そしてマーキングと推移します。
 物資は基本的にダンボールで輸送されますが、この際は後述の検数(および荷整理)のためにはある程度決まった荷姿(梱包)で望ましいです。そのため、一般にダンボールでの輸送では、小ダン/中ダン/大ダンというあらかじめ規定された3種類の荷姿で行われることが多く、特に中ダンが多く使われます。


 必ずしもダンボールで輸送する必要はなく、たとえば上の図ではスコップはダンボールに入らないため、裸(何もつけない状態)で輸送したりもします、また、輸送形態にはスチールコンテナ(スチコン)、12ftコンテナというものもあり、どちらもダンボール輸送に向かない大型のものを運ぶときに用います。どちらかというとスチコンは重いもの、12ftは大きいものに適します。
 
 が、それにしてもやはり便利なのが中ダン。ほとんどの物資はこの形で送られます。


2. 物資集積、積荷リスト作成/提出


 このように梱包した物資は基本的に極地研の倉庫に集積されるわけですが、港へ持ち込まれてしらせに乗せる前に、積荷リストというものを完成させる必要があります

 これは読んで字のごとく、しらせに乗せる積荷をリスト化したもので、物品名称や重量、容積はもちろんのこと、金額や積付場所、備考も書く欄があり、物資そのものの情報のほか、どこに積み込むのか、どこに送るのかなどを記載することになります。さらに物資の識別のため、このリストの情報から伝票を作るとともに物資に貼られます(下図でダンボールに貼られているのが情報を記した伝票)。



 大量の物資が船に乗せられますが、船上で使われる物資はごく一部で、大部分の物資には目的地があります。そのため、重要な要素である目的地やその緊急性については伝票番号の記号で分けるほか、梱包のガムテープでも色分けします。今回の場合、

  • 黄土色→昭和基地への通常物資
  •  赤 →昭和基地への優先物資
  •  青 →船上もしくは沿岸で使う物資

というように分類していました。


3. 貨物入庫報告書作成/提出


 積荷リストができたところで、今度は貨物入庫報告書というものを作ります。

 積荷リストはあくまでリストですが、貨物入庫報告書はその名の通り、物資が港の倉庫に入庫するときに使うものです。しかし積荷リストで基本的な事項はほぼ網羅しているため、積荷リストからそのまま貨物入庫報告書が作ることは可能です。


4. 埠頭倉庫での搬入・検数・立会/しらせへの積み込み


 ここまできたら、あとは埠頭での搬入・検数・立会が10月半ば、しらせへの積み込みが10月末〜11月頭に残すのみ。


 検数というのは検数協会という謎の団体に積み込み物資をチェックしてもらうことで、なんかよくわかりませんが厳格なチェックがあります。冬なので寒いです。南極よりこの時期のほうが寒かったな。




「輸送が終われば南極観測は半分終わったようなもの」という言葉もあり、それだけ輸送というものが重要なのですが、そのぶんだけやらねばならないこともあります。
 特に検数がある10月までの間、研究は進まず、論文は書けず、作業は進まず、3-4周回もできずという有様で大変でした。将来的にはヒュッと輸送できるようになればいいなぁ。

 本日は以上です。

2018年8月13日月曜日

南極/いつでも死ねる場所

 久しぶりにG=ヒコロウ(*1)の新作が出るそうです。8月31日。
*1) 呼吸するように休載する漫画家。

 G=ヒコロウはファミ通ブロス(*2)で『プロフェッサーシャーボ』やっている頃から好きなのですが、ほんとこのおっさん新刊出してくれない。道満晴明はわりとコンスタントに新作出しているけど、G=ヒコロウはほとんど見ないから食えているのか心配になりますね(*3)。
*2) ゲーム雑誌なのか漫画雑誌なのかよくわからない雑誌。表紙が『パラサイト・イヴ』とかでプレステ全盛期なのに毎回『風来のシレン』のページがあったりした。
*3) パンとかね。

 久しぶりに新刊だからありがたいのですが、南極にいると当たり前ですがAmazonの荷物受け取れないので、電子版でないと買う意味がありません。電子版出してくれるかな。ヒコロウ、電子版があるの、合作の『ジークンドー』しかないのですよね。Amazonだと。

 とはいえ電子版があるにしても、ダウンロードできるのは昭和基地だけ。みずほ基地やドームふじ基地への内陸旅行に出てしまえば、インターネットも使えず、電子版のダウンロードもできません。わたしは9月半ば〜10月半ばと、11月〜2月に内陸旅行に出るので、その前に電子版発売してくれないと。紙版と電子版ずれるのよくあるけど、あれ勘弁していただきたい。

 さて、というわけで今回は内陸旅行で直面する危険地帯について書いていきたいと思います。すごい強引だが、珍しく序文の無駄文から繋がったような。

「いつでも死ねる場所」として知られる南極は単純に寒いというだけで死を与えるに値するのですが、南極特有の地形がそれに組み合わさると、よりその危険性が高まります。



以下、危険地帯を4種類に分けてみました。


  1.  - 割れている:クラック、タイドクラック、クレバス、ヒドンクレバスなど
  2.  - 水が溜まっている:パドル、シャーベットアイスなど
  3.  - 凍っている:裸氷帯など
  4.  - 形がおかしい:プレッシャーリッジ、サスツルギ、ドリフト、ウインドスクープなど


1. 割れている


 クラック、クレバスといった「割れている」地形は非常にわかりやすく、その危険度がわかりやすい危険地形です。


 どちらも海氷・雪氷上に生じた裂け目のことを指します。山だと小さい指や手が入る程度の割れ目をクラック、人間が入る程度のものをクレバスと大きさで分けているようですが、南極だとそういうわけではなく、大きなクラックもあります。どう使い分けているのかよくわかりませんが、海氷上だとクラック、積雪(氷床)上だとクレバスと使い分けているパターンが多いように感じます。正しい使い方なのかはともかく。

 海氷上のクラックのうち、潮の満ち引きによって生じるものをタイドクラックといいます。大きな裂け目になりやすく、雪上車でも足を取られたり、落下の危険性もあります。

→海氷安全講習|昭和基地NOW!!
(http://www.nipr.ac.jp/jare-backnumber/now/back51/20100304.html)

 こうしたクラック・クレバスは上を通らないのが最適なのですが、移動のルートによってはそうも言っていられない場合も多々あります。通らなければいけない場合、重要なのは「割れ目に対して直角に渡る」こと。斜めに渡ると落ちやすくなり、危険です。また、道板と呼ばれる木の板(*4)を渡して重量を分散させることも重要で、雪上車が渡る場合でも道板を渡す場合があります。
*4) 燃えることを除けば、耐寒性に優れた高強度の素材である木材は南極でもっとも優れた素材で、建物や車両にも使われる。


 とはいえそれが可能なのは、あくまで見えている割れ目。積雪が上に薄く被ってしまったクレバスはヒドンクレバスと呼ばれ、察知が非常に難しくなります。配られた資料では「大陸旅行では最も注意しなければならない」とか書かれているんですが、どうせいいうねん。


2. 水が溜まっている


 水溜まりです。

 海氷の上の積雪の重みで、海氷が沈んだとき、そこに割れ目があると海水が染み上がってきます。こうなると積雪がどろどろとしたシャーベット状になってしまい、雪上車が上に乗ったときにキャタピラが嵌り、動けなくなります。このような地形をシャーベットアイスと呼びます。

 また、夏期間に強い日射にさらされると、海氷上に溶けた雪によって水溜まりができることがあります。これはパドルと呼ばれ、やはり雪上車の足を取るほか、海氷下まで穴が通じている場合は底なしとなっており、雪上車がそのまま沈んでしまう場合もあります。

 単に水が溜まっているだけとはいえ、下が不安定な海氷となると非常に危険なのですが、水が溜まっている以上、色が海氷と違っているので、水が溜まっていない場所を通るのがベストです。




3. 凍っている


 凍っていれば滑る。これは日本でも起きる現象で、それが南極でも危険なことはわかりやすいでしょう。

 さらに凍っているがゆえに起こる南極特有の事故をあげてみると、橇牽引時の衝突がありえます。雪上車は内陸旅行に向かう際はその準備作業のときに、ワイヤーで2トン以上の重さの橇を引いていますが、氷が露出している裸氷帯の上を通ってしまうと、橇が勢いを持って雪上車に衝突してしまうことがあり、大変危険です。これも凍っているところを通らないのがベストです。南極の危険地帯の対処ってこんなのばっかりですが、よく考えるとどこでもそうか。





4. 形がおかしい


 形がおかしい程度で文句はつけないでほしい、と農家の方なら思うかもしれませんが、形の影響がもろに出てくるのが南極。


 日本では、雪というのは穏やかなものです。しんしんと夜半から降り続けた雪は、どこまでも続く雪原を作り出し、一歩踏み出せばそこに足跡を受け入れます。
 が、ここは南極。雪は降り積もるものではなく、押しつぶされ、流され、吹き飛ばされてくるものなのです。低温で雪氷は塊、決まった方向から吹いてくる風は風紋を形作ります。サスツルギはこの風紋が大きく発達したもの。雪上車でその上を走行しようものなら、車両が傾き転倒しかねません。基本的には通らないのがベストですが、通らなくてはいけない場合は例によって垂直に超えます。

 また、障害物が存在しているとドリフトという盛り上がりが障害物の左右から後方にかけて形成され、抉られたようになった部分はウィンドスクープとなり、非常に不便な障害物となりえます。


 プレッシャーリッジは潮流によって海氷がぶつかりあって形成された小高い丘のようなもので、単純に障害になるのみならず、砕けた箇所から水が染み出し、パドルやシャーベットアイスの原因となります。



 以上、今回はこのように南極で脅威になる地形をまとめました。基本はすでに書いたように、

  • ・危ないところは渡らない
  • ・渡らなければならないなら、その地形に対して垂直に渡る

の2点を押さえておくことが重要となるわけですが、その前にその「危ないところ」を発見しなければならないわけで、それが最も難しいわけです。ちくしょう。すまん罵倒が出た。

 頭で書いた通り、今後内陸旅行に出る機会が二度あるので、そのあと帰ってこなかったら死んだと思ってください。今回は以上です。

2018年7月29日日曜日

観測隊/情報発信

 朝起きたら小さいシーツのようなものが足元にあって、「シーツが分裂して新しいのが生まれたか」と思ったら白い服でした。な……何を言っているのかわからねーと思うが、おれも何をされたのかわからなかった……。催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。

 どうやら寝る前に洗濯物を畳んでベッドの上に置き、それを忘れたまま寝たようです。それ自体はわりとよくあるのですが、今回は衣服が綺麗に畳まれた状態を保ったままだったので、新たなシーツが誕生したのかと思いました。脳は正常です。

 さて、ミッドウィンターが終わり、極夜も明け、忙しい時期が続いているわけですが、極夜の間にミッドウィンター祭以外に集中して行なっていることがありました。

 それは南極教室と呼ばれる、日本の学校とビデオ接続して昭和基地を紹介する情報発信広報活動です。
 また、南極中継と呼ばれる、学校に拘らない場所との中継もここのところ行われています。先日は静岡の静岡科学館科学茶房と中継があり、出演させていただきました。

 こうした活動は特に極夜時期のみ行っているわけではありませんが、極夜の期間は外での活動が少なく、逆にいえば他の時期は観測・設営活動に精を出さなくてはならないため、しぜんとそれ以外の活動がこの時期に多くなるわけです。

 今回はこの情報発信について書いていきたいと思います。

 さて、まず南極観測隊からの情報発信としては、主として3種類のルートがあります。


  1. 南極本部または国立極地研究所が発信元となって行うもの
  2. 同行記者による取材
  3. 隊員個人のSNS等による情報発信


1) 南極本部または国立極地研究所が発信元となって行うもの
 南極本部や極地研が公式に発表するものですが、

  • 重要な情報に関する報道発表
  • 公式ホームページでの発表・個別の機構及び雑誌等への定期掲載
  • 南極教室・南極中継・南極授業

が主としてあります。

 重要な情報に関する報道発表というと、たとえば南極の氷床下に埋まっていた謎の遺物を掘り返したことで目覚めた物体が隊員たちに寄生して暴れまわり始めた、だとかが思いつきますが、それ以外にも、昭和基地に接岸した、というような毎年行われることでも重要な情報として報道発表に回されるものもあります。
 注意点としては、これらの報道発表する予定の情報は、報道発表が行われるまえに(後述するSNSなどで)個人で発信してはいけないということです。発信自体は可能ですが「先にしてはいけない」のです。

 実際に個人で発信した場合にどうなるかは伝えられていませんが、たぶん昭和基地引き摺り回しに処さるか鋸引きだと思います。なのでThe thingとかブリザーガ、ジャムなどが迫っている状況で自撮りして「昭和基地壊滅なうw」(*1)となどとTwitterに投稿することはできず、隊長から極地研へ、極地研から南極本部へ、本部から報道機関へ、機関から公表されたのを確認してからようやく投稿できます。
*1) そういえばなうって聞かなくなったな。

 公式ホームページでの発表や個別の機構及び雑誌等への定期掲載に関しては、どちらも極地研広報室を通して行われます。公式のものとしては、
→南極観測のホームページ
→昭和基地NOW
です。ここに隊員が記事を寄稿する場合、基本的には極地研広報室から隊長・庶務経由で依頼があり、隊員が執筆、隊長・庶務に戻してから広報室を通って掲載されます。
 これ以外の媒体に掲載される場合でも基本的にこの流れは同じで、極地研広報室を経由してもらわないと掲載はできません。なので依頼がある場合は一度極地研へ打診してもらい、そこから南極本部で検討したのちに依頼を受けるかどうかが決定されます。

 南極教室・南極授業・南極中継はTV会議システムを利用したリアルタイムでの中継システムです。


「南極や昭和基地のことを紹介する」「リアルタイム中継である」「一般の人間に向けて発信する」といった点は共通ですが、違いとしては以下の通りです。


場所対象主たる発話者時期
南極授業派遣教員の学校学生派遣教員
(夏季同行者)
南極教室隊員に関連した学校学生越冬隊員越冬
南極中継科学館
サークル会場など
団体関係者
参加聴衆など
越冬隊員越冬

 上の表の通り、南極教室と南極授業は、場所が学校であり、対象が学生であるという点は共通です。違うのは夏隊同行者である現職派遣教員によって行われるか、それとも越冬隊員によって行われるかという点です。



 南極授業のほうは、夏時期は外に観測に行っていることが多かったのでよく知りませんが、南極教室は相当のコストをかけて行われています。具体的には、

  • ビデオカメラなどの本格的な機材を用いての中継
  • MCのほか、ディレクターやタイムキーパー、AD、照明係の存在
  • ちゃんと台本がある

などです。対象が若い学生だからかしっかりしていますが、そのぶん自由度が低いというか、枠がきっちりしすぎている感がないでもないです。



 一方で南極中継はというと、こちらは、

  • iPadなどを用いた簡易的な中継
  • 大型機材を使わず、授業でもないので最低限の人数で可能
  • 台本がない場合があり、MCの裁量が大きい

といったところ。



 上のように書いてしまうと、中継のほうはものすごくいいかげんにやっているように聞こえてしまいますが、最低限の人数で簡易的な装置を使うということは動きが軽く、コードという物理的な制約のあるビデオカメラでは行けない場所、たとえば外の広場から中継を行うこともできるということです。



 また、台本がなくMCの裁量が大きいため、時間の使い方も中継先の状況や実際の進行に従って決めることができ、内容もそれぞれの開催場所に合わせて決定することができます。南極教室はある程度の大枠が決まっているため、何度も見る人がいたら途中で飽きられてしまうでしょう(*2)。そういうわけで、個人的には南極中継のほうが好きです。楽だし。
*2) 「おれは南極教室のために各地の小学校を転々としているぜ」という小学生20年のプロの南極教室リピーターだとかには。


2) 同行記者による取材
 過去には日本新聞社から派遣された同行記者が観測隊に加わっていたことがありました。しかし今回の59次隊では派遣記者はいないので、この「同行記者による取材」がどんなものなのかはよくわかりません。

 ただし今回は「企画提案取材」というメディア関係者の取材による採択枠があり、NHKからの同行者が2人採択されていました。過去の記録を見るとNHKはしばしば昭和基地を訪れ、取材を行ったり、送受信設備を建設していたりしたようです。


3) 隊員個人のSNS等による情報発信
 観測隊員による個人的な情報発信も認められており、本ウェブログ『この星を守るため』もそうした個人情報発信のひとつです。

 さて、個人の情報発信については3つの規制があり、それは、

  • 未公表の公式情報を扱わない
  • 開設しているHP等のアドレスを隊長・情報発信、広報室に告知する
  • 公序良俗に反したり、観測隊の名誉を傷つけてはいけない

というものです。ちゃんとこれに従っているかどうか見てみると、

・未公表の公式情報を扱わない
→そもそも時事ネタをそんなに扱っていないうえに、何かが起きてから記事にするまでが遅いので未公表の情報がない。

 よし、大丈夫。

・開設しているHP等のアドレスを隊長・情報発信、広報室に告知する
→航行中のHPを確認し難い時期とはいえ、通達した。

 よし、大丈夫。


・公序良俗に反したり、観測隊の名誉を傷つけてはいけない


 本日は以上です。

© この星を守るため
Maira Gall