2019年4月1日月曜日

はじめに

  このページはトップに固定されています。

 このウェブログは2017-2019年に行われる、第59次南極観測隊の一隊員による、南極観測隊に関連する内容を非公式に記載したものです。本内容は、概ね以下の4つに大分されます。


  1. 南極そのものに関するもの
  2. 南極観測隊に関するもの
  3. 南極観測隊員に関するもの
  4. その他


1) 南極そのものに関する内容 → タグ:南極
 第59次南極観測隊(以下、JARE59)は、当たり前ですが南極で活動を行います。南極地域の定義は一般に南緯60度以南の領域で、ここから先は日本とは大きく異なる気候や生態系が待ち受けています。それらについて紹介しつつ、実際に南極にいる間は実際の画像を交えて紹介できればと思います。

→南極/南極の気温(2017/11/21)
→南極/環境保護条約(2017/12/20)
→南極/ブリザード(2018/01/04)


2) 南極観測隊に関する内容 → タグ:観測隊
 この内容が(おそらく)メインコンテンツになる内容です。

→観測隊/スケジュール(2017/11/13)
→観測隊/研究観測(2017/11/24)
→観測隊/観測隊構成(2017/11/26)
→観測隊/オーストラリアでの行事(2017/12/01)
→観測隊/砕氷船しらせ(2017/12/08)
→観測隊/日本南極観測隊の歴史(2017/12/11)

 南極に関する記述がある本やウェブサイトはすでに十分な数があるのですが、その大部分の内容は南極の自然気候や生物、研究活動、探検歴史などに関するものです。しかし南極についてではなく、日本の南極観測隊そのものに関しては同じ研究者に対してもあまり知られていません。

 JARE59でどれくらい期間、何人くらいの人間が、どのような活動をするのか。
 JARE59ではそのためにどんな準備をして、どんな訓練を行い、どのような行程を経て活動をしていくのか。
 JARE59は何を目的としているのか。

 そのようなことを記述していきたいと思います。

 現地での実際の活動や、それに関してすっごーいたーのしーといった内容は基本的には記載しない予定です(*1)。というのも、自分は今回が初めての南極で、右も左もわからないし、失敗することもあるだろうし、何もかもうまくいかず、前後不覚になり果てることもありえるわけで。要は現場で実際にうまく行くかわからないので、そういった内容は可能な限り書かないというリスク軽減だと思ってください。
*1) なんかすごくすっごーいわーいたーのしーになったら書くかもしれません。

 それと本ウェブログは基本的に観測隊の最新の活動内容をお届けするものではありません。南極観測隊の活動が国家事業の一種であり、大本営の報道が優先する必要がある場合があるためです。非公式が先に発表するとどうなるかはよくわかりませんが、もしかするとわたしの首が飛ぶかもしれません(*2)。
*2) うっひょー。

 例えば南極に突如開いたゲートからのちにジャムと呼ばれる異星人の飛行機が飛び出してきたり、遊星に付着していた物体Xによって基地が破壊されてどうせ死ぬなら道連れだという勢いで頑張っていたとしても、そういったレベルの情報はかなり重要なので公式発表(*3)があるまでの間はこちらから発表するとはできません。
*3) そういう情報が流れたら戻ってきた隊員の血液が高温に晒された途端に正体現さないかどうかとか、L型アミノ酸をきちんと消化できるかどうかをちゃんと確認してください。

 最新の内容や南極観測隊に関するまともな情報が欲しければ、
→国立環境研究所 南極観測のホームページ
→昭和基地NOW
 などをご覧ください。

3) 南極観測隊員に関する内容 → タグ:隊員
 自分が高校生のとき、とある公演をした南極観測隊経験者の方は「南極に行きたければ金持ちか研究者になれ」と言いました。残念ながらお金持ちには向いていなかったので(*4)研究者になり、結果的には南極に行くことになったので、個人としては方針はおおむね正しかったわけですが、実際のところ観測隊の中で研究者が占める割合はそれほど多くありません。JARE59の観測隊にはいろんな人々がいます。
*4) はー金が欲しい。

 そうした雑多な人物を紹介していくわけですが、年齢とか血液型とか家族構成とか趣味とか弱点とか性癖とか黒歴史とか、なんかそういう他人の個人情報とかわたくしわりと関心がないというかどうでも良いのでしません。

 紹介するのは、

  • 南極での仕事内容:何をするために南極に来たか
  • 南極に来ることになった経緯:どうすれば南極に来られるか

に絞りたいと思います。というのも、これらの情報が新たに南極に来たいと思っている人々に役立ちそうだと思ったからです。

4) その他 → タグ:その他
 それ以外の内容です。

→その他/もふもふモフモフ(2017/11/24)
→その他/宇宙よりも遠い場所(2017/12/31)


 以上の内容を適宜更新していくことになります。隊員のSNSの情報発信は公序良俗に反するものや観測隊・南極観測の名誉を傷つけるものは認められないことになっていて、なんかこの「はじめに」を書いた時点でだいぶ怪しい気がするのですが、突如このブログが消えたらそういうことだと思ってください。

 遅れましたが、このページを含む本ウェブログの主な記述者は越冬の一般観測研究の山田です(*5)。本ウェブログはの2017年11月からJARE59越冬隊終了の2019年3月までを目標にのろりのろりと更新していく予定です。
*5) この「越冬」だとか、「一般観測研究」だとかについてもおいおい説明できれば。

2019年3月7日木曜日

観測隊/観測隊の装備品

*しらせ乗船中は通常のインターネット接続が不可能なため、メールでの投稿を行なっています。本記事はインターネット接続可能になったあとで画像の追加や文章の改変を行う予定です。またコメントも閲覧できません。

 帰路です。20日が経過しましたーーとこの記事を書き始めたとき書いていたのですが、書き出しだけ書いて完成させないうちに一ヶ月が経っていたぜ。

 前回の記事で「船で何もすることがねぇので映画見てるぜ」という言葉に恥じず、毎日1.6本くらいのペースで映画を見て、『戦艦シュペー号の最後』(*1)でシュペーの船長が「戦艦も女の子と同じだ、服装を変えて変身する」というセリフを聞いて「確かに昨今は特にそうだなぁ」と思っていたりしています。生まれる以前どころか前世だった頃の映画だけど、まったく古臭さがなくて良かった。
 あと有名どころだと『ズートピア』とか『ラ・ラ・ランド』とか良かったのですが、有名どころを単純に面白いというのはなんか癪です。
 ほかに書きたいことだと、奇跡のコラボでレンタルコーナーの返却棚に『リンカーン』『リンカーン/秘密の書』『リンカーンVS.ゾンビ』(*2)が並んでいました。
*1) 1956年の映画。イギリス映画だが、イギリス海軍とドイツ海軍の戦いを、三隻の巡洋艦と戦ったドイツ海軍の豆戦艦アドミラル・グラーフ・シュペーを中心に描く。
*2) 『VS. ゾンビ』をこのとき返したのがわたしです。

 そんなわけで海戦映画を観たから今回は船のことを書こうかと思ったのですが、前回書いたような。何書いたっけ。そもそも書いたっけ。何を書いて何を書いていないのかわからなくなってまいりました。ネットに接続できないので調べられず。
 とりあえず間違いなく書いてないことを書こう、ということで今回は観測隊の装備品について書きます。恒例のごとく出だしはまったく関係なかった。

 日常的に使用する物品や使用頻度の多い物品については、隊員個人で持ってくることになっていますが、南極の厳しい環境に耐えるための防寒着や一般的な必需品といったものは支給されます。これらは個人装備ということで南極に出向く前の全員集合の際に配布されます。
 一方で実際に南極に到着してから使用するであろうコンロやテントといった品々は、共同物品ということで観測旅行に出発する前に(あるいは日本で)準備されます。

 今回紹介するのは個人装備についてです。

□個人装備
 個々人に事前に配布される個人装備ですが、その内訳はその隊員が越冬隊か夏隊か、隊員か同行者かで異なります。当たり前ですが、越冬隊ほど寒冷環境に適した装備となります。具体的にどんなものが配布されるかは隊次によって異なりますが、59次での個人装備はこんな具合でした。

—貸与されるもの
・羽毛服、冬用アウター
 極寒の南極に耐えうる外套は個人装備として支給されます。観測隊に支給されるだけあって羽毛服は非常に暖かいもので、-50度の環境であっても耐えうるものです。少なくとも數十分であれば。
・ダッフルバッグ、ザック
 ザック類も支給されます。ダッフルバッグは船から基地への移動や野外活動で活躍しますが、ザック類は野外活動がなければさほど使用しないかもしれません。

・ヘッドランプ、コンパス
 コンパスはあまり使用する機会はありません。ルート工作をするにしてもハンドベアリングコンパスという専用のコンパスがあります。視程が悪いときを想定するにしても、ブリザード下では外出注意・禁止令が出されるうえ、万が一の想定外のブリザードがあったとしても、通行するような場所はライフロープが張られているため、よっぽどのことがない限りはコンパスの出番となりません。そもそもそういう状況になったらコンパスあっても死ぬ気がする。
 一方で大活躍なのがヘッドランプ。人間のほとんどいない南極、外灯の数は少ないばかりか、夜間のオーロラ観測のための灯火管制というものがあります。この期間は夜間、外灯が完全に消されるだけではなく、基地からも明かりが漏れぬようにとすべてのカーテンが閉められます。こうなると、手を伸ばした先に何があるのかもわからなくなるほど。ヘッドランプなしには出歩けません。

—支給されるもの
 個人装備品は国から支給の南極観測経費で賄われています。そのため、本来はすべてが貸与というのが望ましいのですが、回収しても再利用ができなさそうなものや消耗品は支給という形にしています。

・夏用アウター、ヘルメット、目出し帽など一般的な防寒着
 羽毛服ほどには分厚くない、しかし日本で使うなら十分すぎるような冬用の防寒着は、夏作業で油仕事やコンクリート造りなどを行うこともあり汚れやすく、支給品となっています(羽毛服も人によってはすごく汚れるのですが)。

 夏作業に不可欠なヘルメットなども支給品。基本的に夏期間の昭和基地はほぼ工事現場であるため、外出時のヘルメット着用が義務付けられています。

 野外活動ではヘルメットを身につける必要はありませんが、外に出ると気になるのが強い日光。こんなときに役立つのが、銀行強盗するときにしか使わないような目出し帽ですが、これも支給品です。ほか、防寒帽やネックゲーターも支給品です。

・長靴、安全長靴、防寒靴
 夏にしろ冬にしろ、昭和基地でも野外でも、通常の靴を履く機会は滅多にありません。雪積もり固まる冬の間はもちろんですが、岩や砂が露出する夏期間も長靴の系統を履くことになります。 
 この理由としてはおおむね二つあり、ひとつは露岩帯や工事現場で足を怪我しないようにするためで、鉄板入りの安全長靴のほうが安全なため。
 もうひとつの理由は濡れても問題がないため。昭和基地では建物内に砂を持ち込まないよう、建物前には水をためた容器が置かれており、これで靴の底を洗うようになっているため、長靴以外では都合が悪いです。

・手袋
 当たり前ですが、南極で手袋は必須です。
 支給品の手袋は適したものが揃っていて、特に内陸旅行に行くとなると日本で一般に売っているような手袋など役に立たないのですが、冷凍庫用の手袋は寒冷化での使用にも耐えうる一品です。さすがに冬の内陸だとそれでも寒いので長時間活動はできませんが。

・靴下
 指先は凍傷を負いやすい箇所ということや、毎日装着し続けるものであることもあってか、他の支給品よりも多めに支給されます。今回は6足でした。
 支給される靴下は山岳用のもので、具体的にどのへんが山岳用なのかはまったく詳しくないためわかりませんが、とりあえず厚くはあります。

・十徳ナイフ
 十徳ナイフといえばスイス製ですが、支給された十徳ナイフがスイス製だったかどうかは忘れました。スイス国旗ってどんなんだっけ。
 現場でよく使ったのは、まずはナイフ。段ボールを開けたりビニールテープを巻いたりといったほかに、タイラップを切ったり果物を剥いたりなどにも。缶切りやコルク抜きなども便利で、もちろん専用の道具があるに越したことはないのですが、とりあえず胸ポケットにひとつ入れておけばさまざまな用途に使えるものがあるというのは便利なもので、かなり重宝しました。人によってはまったく使わないそうですが。

・日焼け止めクリーム、リップクリーム
 雪面による反射により、強い日差しを受けることになる南極では、日焼け止めクリームやリップクリームは必需品です。
 日焼け止め類は支給されはしますが、たいして外出しないならともかく、長期旅行に耐えうる数ではありません。野外で活動する場合は自分でも持ってくることをオススメします。

・サングラス、ゴーグル
 同様にサングラスも必需品ゆえに支給品。近視などを持っている場合は度入りサングラスも選べますが、この場合は私費がかかります(全員集合のときに検査ができます)。
 強いブリザード下ではサングラスに雪が張り付いたり、曇ってしまったりで役に立たなくなることが多々ありますが、そのような場合ではゴーグルが役立ちます。これも必需品です。個人的にはあまり使いませんでしたが。

自分で持ってきたほうがよいもの
 もちろんのこと、支給品だけでは日々の生活は不十分なわけで、自分で持ってきたよいものもあります。

・下着・肌着類
 パンツは履きましょう。

・コップ
 食堂にはカップが十分数ありますが、食事時だけではなく日々の生活で利用することを考えれば、コップは間違いなく持ってきたほうが良いでしょう。しらせにも基地食堂にも電子レンジがあるため、電子レンジ対応のものが望ましく、また、船内では揺れが激しくなる場合があるので、蓋付きのものがオススメです。

・テーブルタップ
 日本のように電力使いたい放題、とはいかないものの、常識的な使い方(PCの給電や携帯の充電など)であれば不足はしないでしょう。しかしながら、船内でも基地でも基本的にコンセント孔は2口しかないため、あなたが電力に頼らないゴリラでない限りはテーブルタップは持ってきたほうがよいでしょう。

・洗濯ロープ
 基地にはある(らしい)うえに、管理棟連の居住棟居室であれば洗濯に使える物干しのようなものが備え付けてあります。しかししらせや夏用住居には洗濯ロープはありません。しらせは乾燥機が使えるため、洗濯物を干さなくても生きていけますが、それ以外の場所で服を着るタイプの性格の方はロープは買っておきましょう。ちなみにハンガーは比較的数があります。

・運動靴、運動着
 支給品の項で「普通の靴は履く機会はほとんどない」と書きましたが、数少ない例外は運動時です。さすがに長靴でランニングはできません。日頃、運動をしないようなインドアな人々でも、南極に来ると頭がどうにかなって走り出したりするものなので、あまり運動する習慣がない方でも持ってきておいたほうがよいです。運動に適した服も。

・置き時計
 PCだの携帯だの、どこでも時計がついていますが現代、それでもやはり置き時計のひとつでもあれば便利です。まぁ腕時計でいいといえばそのとおりなのですが、腕時計って時間調整が難しかったりしませんか? 特に船で移動中は時刻帯変更が多いのに。置き時計ならだいたい見ればわかるんだけど、これどうやるんだっけ、何回かやったことはあるんだが、うーむ、Citizenの2ボタンの腕時計の時刻調整方法知っている方がいたらご連絡ください。


 これ以外にも、嗜好品などはもちろん自分で持ってくる必要がありますし、ブーメランなど個人的に必要な物品は自分で持って来る必要があります。本日は以上です。

2019年2月12日火曜日

観測隊/限界医療

*しらせ乗船中は通常のインターネット接続が不可能なため、メールでの投稿を行なっています。本記事はインターネット接続可能になったあとで画像の追加や文章の改変を行う予定です。またコメントも閲覧できません。

 帰路です。10日が経過しました。

 この間、特に何もすることはないーーというわけではないのだけれども、基地とか野外に出ているよりは遥かに「やらなければいけないこと」がないので、さぞかし記事を書くのが捗っただろうと思いきやまったくそんなことはなく、しらせ艦内のレンタルビデオ室でビデオ借りて見まくっていました。

 ここに感想でも書き殴ろうかなぁ、と思ったけど『ドッチボール』(*1)とか『ピラニア・リターンズ』(*2)とか『赤ずきんVS狼男』(*3)とかの感想書いても脳を疑われるだけなのでやめておきます。
*1) ドッチボールする映画。
*2) ピラニアが戻ってくる映画。
*3) 赤ずきんが狼男と戦う映画。

 でも『キングスマン』(*4)くらいは許されるか。
 脚本はわりとアレながら、アクションと酷すぎる見せ場は素敵だったのですが、一個だけ展開で気に入らない点が。スパイたちのコードネームがアーサー王と円卓の騎士ネタだったのですが、もっとこう、なんというか、集まって欲しかった。『バトルシップ』(*5)で爺さんたちが集まってくるシーンとか好きな人間としては、映画の主役では決してないけど活躍しうる人間を描いて欲しかったし、円卓の騎士が集うってなんか良いではないか。良いではないか。
*4) 頭が爆発しまくるスパイ映画。
*5) 船が戦う映画。

 とまぁそんなこんなで映画ばっかり見ておりまして、今も『パニックルーム』(*6)見て「こいつ(犯人)強ぇな」とか言いながらこの記事を書いているのですが、そんなことは特に関係なく医療の話です。
*6) パニックルームの映画。
 
 以前に(しらせ乗船中なのでリンクは貼れないけれど)説明しましたが、観測隊員は11月末の出発前に5回、一堂に会する機会があります。冬の訓練、夏の訓練、そして極地研で3回行われる全体打ち合わせ会合です。
 8月に行われる第一回の全体打ち合わせ会合では、いくつかの書類と資料を手渡されることになりますが、その中には『南極における医療の現状と限界についての説明と承諾について』(以下、『医療の限界』)という書類と同意書があります。この書類は、南極における医療の現状と限界について説明したものです(*7)。
*7) 映画の注記みたい。

 内容を簡単に叙述すると、以下のようになります:
1) 一般的な医療設備はあるし、基本的な生活の中で起きる怪我や病気には対応できる。基地には外科手術ができる設備もある
2) 基地で対応不可能な場合に緊急搬送しなければいけないとなった場合、夏ならしらせや航空機で可能性があるが、越冬期間は不可能
3) 一定量の薬は備品として存在するが、持病があるなら薬を持参すべし
4) 日本南極観測隊には2名の医療隊員がいる
5) 南極は特殊なため、危急の事態に陥った場合に国内では起こらないような後遺症が発生する可能性がある
6) 野外活動では基地のような治療は望めないし、基地にただちに帰ることができない可能性もある
7) 基地の医療設備は妊娠・出産は考慮していない
8) 南極での健康判定の結果は個人情報に配慮したうえで活用する
9) しらせが日本に戻り始めるまえに健康に異常があるとみなされれば帰国命令が下される
10) 南極は日本ではない

 ご存知の通り、文明圏からはるか遠くに離れた南極です。大戸屋もまさし(*8)もありません。『医療の限界』では、それを突きつけ、「これで良いのだな?」と改めて問いかけるものです。同封される同意書に同意しない限り、観測隊として出発することはできません。
*8) 宇都宮市内にある餃子屋。白米なし、ビールなし、メニューは焼き餃子・水餃子・揚げ餃子のみ、というシンプルな赤単アグロみたいな構成。

 しかしながら(1)で述べているとおり、南極の医療は限界がありますが、まったく存在しないわけではありません。
 昭和基地管理棟の『オングル病院』という看板が掲げられた区画に配備されている設備は、ちょっとした診療所に相当するものであり、
・一般的な治療・手術(全身麻酔・開胸・開腹含む)
・心電図、レントゲン、内視鏡、採血といった一般的な検査
・テレビ会議システムを利用した遠隔医療
・最低限の歯科治療
といったことは可能です。
 逆にいうと、
・歯科医レベルの歯科治療
・妊娠・出産関連の対応
・CTスキャン、MRIなどの高度な検査
・大量の輸血(隊員から取れる以上の輸血)
などは不可能ということになります。
 特に一般に健康とされる隊員でも関係がありそうなのは、歯科治療の関連でしょう。観測隊員には医療従事者であり医者が参加しますが、あくまで医者であり、歯医者ではありません。素人目には何が違うのかわかりませんが、領分が違うそうです。なので出来る限り歯科治療はしなくても良いように、出発前には健康診断での検査 / 歯科治療 /親不知の抜歯 などが言い渡されます。
 また夏期間の砕氷船しらせ乗船中であれば、しらせには船医と歯科医がいるため、歯科治療も可能です。実際、今回の59次越冬隊がしらせに帰還した直後に数人が歯科治療を受けていました。

 さらりと書いてありますが、(4)の医療隊員が2名というのは、他の外国基地にはない特徴です。一般に外国の南極観測隊では医療隊員はせいぜい1名、というところが多く、こうなると長期旅行や医者本人が怪我・病気をしたときに対応できないのですが、日本の観測隊ではそうはなりません。組体操もできます。
 しかしながらいるのは医者だけ。看護師はいません。通常、国内の外科手術では、
・麻酔科医1名 - 患者の管理
・手術担当医2-3名 - 執刀とその助手
・機械出し看護師1名 - 術者に道具を手渡す
・外回り看護師1-2名 - 患者の介助やライトの調整
という役割になるそうですが、南極だと執刀以外の役割と一般隊員が行わなければいけないというわけです。だいぶ怖いですね。手術されるほうも、するほうも(*9)。
*9) 個人的な話だが、過去に人が建物から落ちたときに第一発見者・通報者になってしまったときに、救急から『傷口の状態を確認してください』と言われたときに「怖くて無理です」と答えたことがある。

『医療の限界』には書かれていませんが、隊員に配られる資料の中には、『南極救急医療マニュアル』(以下、医療マニュアル)という小冊子があります。これは医療隊員によって発行されるもので、60ページほどの冊子ですが、船酔いからAEDによる心肺蘇生まで、昭和基地で起こりうるさまざまな症例への対処法が網羅されています。まぁこんなもん現場で読んでいる暇はないのですが、ないよりは頼りにできます。
 この『医療マニュアル』の最大の特徴は、毎年改定されている点です。
 たとえば、第57次越冬隊では帰還直前の夏期間にノロウイルス胃腸炎が発生し、越冬隊・夏隊含めて羅患者30名の大災害となったのですが、これを受けて59次隊の『医療マニュアル』では感染症対策の項目が追加されています。

 さて、59次隊では大きな病気も怪我もなく帰路についています。
 南極観測は冗談抜きに危険と隣り合わせで、今回大きな災害もなかったのは単純に幸運ゆえ、という気もします。だから、まぁ、そういうわけで、なんと申しますか、この幸運が続けば良いのではないでしょうか。
 ちなみに以前の隊では遺体袋を3枚調達したらしく、3人分は基地にあるそうです。本日は以上です。

2019年1月27日日曜日

観測隊/内陸観測


二度目の内陸旅行、2.5ヶ月に渡るドームふじ旅行から昭和基地に帰ってまいりました。体重測ったら5kgくらい落ちてた。これを「内陸旅行ダイエット」として帰国したら売り出そうと思うので真似しないでください。

 出発前にPS Vitaのメモリーカードが壊れまして、くそう、壊れたものは(毎度恒例のソニー製の独自規格のせいで)どうにもならないので、多めに本を買っていくことにしました。

 最近あんまり新しい作家を開拓することがなかったのですが、ジョン・ヴァードンの『数字を一つ思い浮かべろ』がとても良かった。メインのトリックは難しくないというか、わかる人間ならあらすじ読んだ時点でトリックがわかる部類なのだけれども、語り口や人物がとてもよい。ハードウィック刑事とか。子どもの頃は図書館の児童書コーナーの推理小説を読んでばかりいたのですが、昨今はミステリあまり読まなくなって久しいだけに良かった。

 続刊をただちに買っても良いレベルなのですが、ジョン・ヴァードンは仕事引退してから小説書き始めた人らしく、いらぬ年齢的な心配をしてしまう。神林長平もマーティンも良い歳でなぁ。最近作家を開拓しなかったツケがここに。

 最近(でもないか?)亡くなったのだとダニエル・キイスがすごい好きでした。キイスはものすごくギリギリまで堪えるのが上手いなぁ、と感じます。森博嗣の昔の短編集で『今夜はパラシュート博物館へ』というのがあって、ようは「オチが大事」という意味のタイトルだと思うのですが、落下で例えるとキイスは落ち方が衛星が落ちてくるレベル。落下傘とか使わない。五体投地。救命阿。『タッチ』とか読みながら死にそうになっていました。

 直接は関係ないのですが、この手のトリックは個人的に城平京(*1)のやつが好きです。叙述トリックとか物理トリックはたいして好きじゃないのだけれども、なんだろう、心理トリックというかなんというか、こういうのは良い。
*1) 最近は『虚構推理』の原作とかをやっているけど、わたしの世代だと『スパイラル』の人という認識の作家。

 たとえば「バラバラ殺人の被害者の胴体だけが発見され、胃の中から綺麗に折り畳まれたメモ用紙が発見された。開いてみると警視庁有数の名刑事の名前が丁寧な字で書かれていた。ダイイングメッセージにしてはメモ用紙が綺麗すぎる。なぜ被害者はこの刑事の名前が書かれたメモ用紙を飲み込んでいたのか?」という事件とか。こういう頭のおかしさが上手い。おかしいといえば乾くるみ(*2)なのですが、書いていくとアレがアレだし、Pagesの日頃使っているページ設定で1ページ超えたのでそろそろ本題に入ります。
*2) 乾くるみの作品を最初に読んだのが『Jの神話』なせいで、何を読んでも驚かなくなったという現象に名前をつけたい。

 出発前にTwitterでエゴサを行ったときに内陸旅行の紹介文関連で、「なんで現在使っていない基地へ行くんだろう? また基地を使う計画があるのか?」という趣旨の発言を見たときに返信しようと思ったのですが、あっ、いや、これはエゴサしているのバレるな、いやバレてもいいんだけど、なんか、ほら、これ、あれで、ああ、いや、もう、帰ってから記事を書こう、と思った次第で、ガンダムファイトレディーゴーなので、今回は「なぜ内陸旅行を行うのか? なぜ今は使っていない基地へ行くのか」ということを第59次日本南極観測隊(JARE59)の例を挙げて説明する記事となります。



 JARE59では3度の内陸観測を行なっています。

 最初が2017年11月ごろから2018年2月ごろまでの先遣隊による夏のドームふじ旅行(JARE58と合同)。
 二度目が2018年9月半ばから10月半ばにかけての越冬隊中継点旅行。
 三度目が2018年11月ごろから2019年1月末までの夏のドームふじ旅行(JARE60と合同)。

 自分はこの3つの内陸旅行のうち、2度目の中継点旅行と3度目のドームふじ旅行の2回に参加しました。なんでだよ。自分が参加したもののほうが説明しやすいので、その概要を説明すると、以下のようになります。






1) 2018年冬の中継点旅行


目的地

  • 中継拠点(MD364)

期間

  • 2018年9月半ば〜10月半ば

主プロジェクト

  • 一般研究観測 - AP0911(東南極における氷床表面状態の変化と熱・水循環変動の機構)
  • モニタリング観測 - AMP0903(南極氷床の質量収支モニタリング)

主目的

  • 中継拠点でのAWSの設置
  • ゾンデその他の大気・雪氷観測

解説

 冬(といっても9-10月なので北半球でいえば3-4月くらい)の中継点旅行の参加者6人のうち、研究系は気水圏(大気、海洋などの分野)のみで、しかもどちらも大気関係です。プロジェクトを見てもわかるとおり、基本的に大気関係の観測旅行となっています。

 主目的で触れているAWSというのは、自動気象観測装置(Automatic Weather Station)の略称で、下の写真のような装置です。雪面に金属の柱を建て、そこに温度計や風速計といった装置を取り付けたものとなります。ゾンデというのは気球に温度計などを取り付けた装置です。


つまり、どちらも「内陸で大気関係の観測する」ものです。
 ではなぜ「内陸で」観測を行うのか?

 南極にはさまざまな国がさまざまな場所に基地を構え、観測を行っているように見えます。が、実際に観測を行っている場所というのは限られており、沿岸に集中しています。たとえば日本でも、→観測隊/みずほ・あすか・ドームふじ基地で見たように、オングル島にある昭和基地以外の基地は現在ほとんど使用されていません。この理由は単純で、内陸のほうが不便で、維持が困難だからです。



 しかし沿岸だけで観測を行なっていてはわからないこともあります。たとえば日本が観測を行っている場所は東南極に分類される地域ですが、この地域は温暖化の影響が出ていない(温暖化傾向が有意でない(はっきり断言できない)、もしくは寒冷化している)らしいことが知られています(Steig et al. [2009]; *3)。
*3) Steig, E. J., Schneider, D. P., Rutherford, S. D., Mann, M. E., Comiso, J. C., & Shindell, D. T. (2009). Warming of the Antarctic ice-sheet surface since the 1957 International Geophysical Year. Nature, 457(7228), 459.

 なぜそうなっているのか、ということについて推測することはできますが、推測して終わってしまうのはアリストテレスの時代まで。科学的に確信するためには、観測による裏付けが不可欠ですし、将来気候の予測のためにも観測は重要です。このような理由から、内陸で観測を行うわけです。



 ここまでが「なぜ内陸で観測するのか?」という話。「なぜみずほ基地を経由して中継拠点という場所に行って観測するのか?」という疑問には答えていないのですが、こちらに対する疑問への回答は、

  • ・そこにかつてから使っているルートがあるから
  • ・まだ観測装置がなく、ルート上でちょうど良い場所だから

という単純なる二点の理由となります。古くから開拓されているルートだから確実に安全とは言い切れないのですが、少なくとも未開拓の場所を進むよりは安全で、安心感もあります。



 ただし観測的な意味合いでみずほ基地などに寄る理由はあって、既に設置されている観測機器からデータを取ったり、メンテナンスをする目的があります。代表的なものがルート旗としても使われている雪尺で、これは単なる旗が雪面に突き刺さっているだけなのですが、雪面からの高さを測ることで雪がどれくらい深くなったかを知ることができるわけです。



2). 2019年夏のドームふじ旅行


目的地

  • ドームふじ近傍(新ドームふじ)

期間

  • 2018年11月初頭〜2019年1月末

主プロジェウト

  • 重点研究観測
    •  - AJ0903(地球システム変動の解明を目指す南極古環境復元)
  • モニタリング観測
    •  - AMP0903(南極氷床の質量収支モニタリング)
  • 一般研究観測
    • - AP0911(東南極における氷床表面状態の変化と熱・水循環変動の機構)
    • - AP0914(南極における地球外物質探査)
    • - AP0902(無人システムを利用したオーロラ現象の広域ネットワーク観測)

主目的

  • 第3期ドーム深層掘削点特定のための基盤地形、氷層内部層調査

解説

 冬の中継点旅行がルートから逆算して観測地点を決定していたのに対し、ドームふじ基地は一般的な日本の内陸旅行での最終到着地点であり、この地点一帯は設定されるのには相応の理由があります。



→観測隊/みずほ・あすか・ドームふじ基地で述べたように、ドームふじ基地は他の基地と異なり「ドーム」というものがついていますが、これは基地が傾斜が緩やかなドーム状の氷床の真上に存在していることに由来しています。この結果として作り出されるのが、分厚い氷床地形で、3000m超の雪氷からアイスコアと呼ばれる氷の棒を掘り出すことで、過去の気候を再現することが可能となります。



 ただし、氷床が分厚いというのは平均で見た場合のこと。氷床下の地形は場所によって異なるため、レーダー探査で分厚い氷の下の詳しい地形を調べることが肝要で、今回はレーダーを取り付けた雪上車で走り続けました。深ければ一概に良いかというとそうでもないらしいので、選定にはまだまだ時間がかかるようで、3年後の掘削開始を目標としています。今回はドームふじ旅行ではアイスコア掘削も行いましたが、3000m級の氷床がある中での100m超しか掘削しない浅層掘削です。






 以上がJARE59で実施した内陸旅行の概要となります。

 内陸旅行で現在は使用していない基地に行く(を経由する)理由を簡単に纏めてしまうと、

  • ・内陸には基地が少ないため、観測に赴く必要性
  • ・昔から使っているルートや基地には観測機器がたくさんあってデータが取れる
  • ・ドームふじ基地周辺は氷床が分厚く重要な地点

ということになります。大事ですね、内陸観測。行きたくないけど。

 本日は以上です。

2019年1月26日土曜日

その他/ドーム旅行中に書いていたもの

 1月23日に約2.5ヶ月のドームふじ旅行から帰還し、昭和基地に戻りました。

 Twitterでもリンクを載せましたが、ドーム隊としての行動中、ドーム隊執筆によるブログが衛星経由のメール転送で掲載されていました。




 こちらに一回くらい書こうかな、と思って文章自体は書いたのですが、完成してから「また(*1)検閲喰らって本来の意図ではないものが掲載されるのが面倒だな」と思い、結局封印したままとなりました。
*1) 昭和基地Nowの原稿とか、地方紙に寄稿した原稿とか。

 このまま封印しても良かったのですが、2月からは砕氷船しらせに乗るので、日本帰国まではまた更新が拙くなる予定(メール経由でテキストのみの更新はできなくもないですが)ということを踏まえ、少しでもブログのかさ増しをするために以下に掲載することにします。





 60次ドーム隊です。

 自分は60次隊ではなく、59次越冬隊の人間です。本来ドーム隊に参加する予定はなかったのですが、越冬中にドーム隊がひとり足りなくなったという連絡があり、(昭和基地からいなくなっても特に不都合がない人員なので消去法で)59次から生贄に捧げられました。

(1月4日)現在、MD528という地点でこの記事を書いています。MDというのは「みずほ基地ードームふじ基地間ルート」のことで、ほぼ2kmごとに2間隔でポイント番号が割り振られています。なのでMD528であれば、「みずほ基地からドームふじ基地へ向かうルート上で、みずほ基地から528km地点」を指すことになります。みずほ基地は昭和基地から約250kmの地点のため、昭和基地へ戻るためにはまだ750km以上の距離を走破しなければなりません。内陸に広がっているのはただ静謐なことだけが取り柄の雪原のみで、ペンギンやアザラシといった生き物は基本的に存在せず、野生で存在するのは汚いおっさんとシャワーを浴びた直後の小汚いおっさんだけです。

 60次ドーム隊はドームふじ近くでのベースキャンプでの観測を無事に終え、昭和基地への帰路にあります。他の投稿記事を読んでいないので正しいドームふじ旅行が伝わっているのかわかりませんが、おそらく一般の読者の方はこの旅行でやることはアイスコアを掘ったり、肉を焼いたり、娘の下の歯を穴に落としたりすることだと思っていることかと思います。

 しかし正しいドームふじ旅行というのは、延々とドリルでアイスコアという氷の棒を掘り出して袋詰めしたり、「ご冗談でしょう?」と言いたくなるような距離と時間をひたすらアンテナのついた車両で雪原を走り回ったりといったものです。「ご冗談でしょう?」という表現がリチャード・ファインマンの次に似合うのは南極観測隊レーダーチーム以外にありません。

 そんな作業を終えての帰路なわけですが、簡単に帰れるわけではありません。南極を舐めるな。上で述べたように、まだ700km以上の距離が残されています。南極でも夏期間はDROMLANという飛行機網が利用可能ですが、大量の観測機材や物資の輸送に飛行機が不向きであれば、車両で地道に走行するしかありません。ドーム隊で利用する主たる雪上車は、キャタピラを備えたSM100という大型雪上車です。出せる速度は時速10kmがせいぜい、夏暑く、冬寒く、取り柄というと古くても頑丈という京都府みたいな車両です。14時現在、車内温度を計測してみたらプラス33.1度でした。夏か。夏だ。外気温はマイナス26度です。特に何の準備もなしに50度差が体感できます。



 このクソ暑い、失礼、非常に暑苦しい車中でテンパー(雪上車のハンドルのようなもの)を握り締めながら考えることといえば、誰しも共通していて、

  • ・早く帰りたい
  • ・お金が欲しい
  • ・自分の責任問題が起こらないで欲しい

くらいのものです。日本にいるときとあまり変わらない。

 ちなみに南極観測隊には南極手当というものがあり、一定緯度以南での場所で活動した日数分だけ追加の手当が支給されます。しかし長時間の運転や作業を続けても、特に給料が増えるわけではありません。しかも計算してみると、一年三ヶ月働いても歌舞伎町で豪遊したら腎臓を売ることになる程度の金額にしかなりません。計算しなければ良かった。現在60次ドーム隊はノルウェー極地研の職員2名と同行しているのですが、ノルウェーでも南極手当に相当するものがあるものの額面は「非常に高額」だそうです。ああ金が欲しい。すまん本音が出た。



 そんなふうにお金が欲しいなぁ、と考えながら雪上車を走らせ続ける帰路です。往路ではブリザードという天然の祝祭日が我々に閑暇スコレーを与えてくれていましたが、まだ内陸部ではそれも期待できません。毎日広がるのは青空ばかり。あー眩しさに腹が立つ。労働の道徳性は奴隷の道徳性である、とバートランド・ラッセルとともに怠惰への讃歌を謳ったところで、代わり映えしない道を運転し続ける毎日です。祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理を表す。驕れるものも久しからず、ただ春の夢の如し。猛きものもついには滅びぬ。ひとへに風の前の塵に同じ。平家物語巻之第一頭、祇園精舎。


2018年11月5日月曜日

観測隊/昭和基地の娯楽


 Hunter x Hunterの36巻がいつの間にか発売されていました。

 前に書いたと思うのですが、南極行っている間に発売されないと予想したものとして、

  • Mount&Blade2
  • 氷と炎の歌の続刊
  • HunterxHunterの続刊

があったのですが、だいぶん裏切られました。しかし『M&B2』と『氷と炎の歌』はど安定っぽくて嬉しくない(*1)。
*1) 『氷と炎の歌』に関しては、
という流れなので帰るまでに出版されないことはほぼ確定である。

 即座にWikiとかで訳が進む『M&B2』と違って(貴様の頭蓋骨で祝杯を挙げてやる)、小説の『氷と炎の歌』は出版されてから訳本出るのに1-2年かかるので切実です。というかもうだいぶん時間経っているから話忘れてしまった。
 そういえば、いちおうドラマ版『ゲーム・オブ・スローンズ』も前半見てたんだけれど、途中で止まっているのですよね。アレ、結末が違うんだっけか。殺陣がうーむなのが引き摺って見なくなってしまった。『GoT』に限らず、海外の殺陣はあんまり好きじゃないのが多くて、たとえば『ペイルライダー』でイーストウッドがかっこよく棒くるくるして敵を倒すシーンとか「はいかっこいいね」で終わってしまって素敵じゃない。『ボーン・アイデンティティー』のCQCとかは好きなんですが。コメディだけど『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』とかも殺陣すごい好きなんですよね。あのくらいはちゃめちゃでいい。すごいな、光速で話が逸れ続けていく

『氷と炎の歌』は〈王殺し〉のジェイミー・ラニスターがいちばん好き(あとシオン・グレイジョイ)で、初登場時から7歳の子どもを窓から投げ落として半身不随にするとか、ザ・クソ野郎なのですが、なんだろう、シオンもクソ野郎だし、アレだ、クソ野郎が好きなんですね。わたくし。ブライエニーと旅するところがとても良い。
 ブライエニーは原作の作中だと醜女扱いされているのですが、明確にどう醜女かというと大柄で男性的な見た目というだけ(だったはず)で、明確に「醜女」というかんじがしないというか、文化的な「美人ではない人」なんですよね。だからドラマ版のグェンドリン・クリスティーが美人過ぎてもあまり間違っていないわけで。
 佐藤賢一の『王妃の離婚』でジャンヌ・ドゥ・フランスが「足萎えのジャンヌ」として不美人の代表みたいな扱いだったけど、結局当時の歴史的なバックグラウンドからだと不具の人間が過剰に石を投げられる(小説的には〈蜘蛛〉ことルイ11世に鼻が似ているというのもあるけど)ということで貶されていた感がないでもなく、ブライエニーもそんなかんじなのかな、と思いました。

 あとアリアに剣の稽古してくれるシリオがけっこう好きだったのですが、ドラマ版だと時間稼ぎするところでガチガチの重装備の〈王の盾〉相手に木剣で突きをして折っちゃうって、ブレーヴォスの筆頭剣士はボケてるの? いや原作描写として確かにそんな感じだったかもだけれど、もっとこう時間稼ぎする感覚で、戦闘してほしいというか。
 ついでにジャクェン・フ=ガーとか顔がまともすぎるというか、もっとこう変態チックなイケメンを期待していたんだけれど、普通のイケメンでは。なんだここは、イケメン畑か。いや変態が好きなだけか。変態とクソ野郎が好きとか未来が見えない。

 例によって前置きでだいぶ文字数を消費しましたが、なんだっけ、このブログは。記憶が。

 もうすぐドームふじに行くため2ヶ月半ほど留守にする(その後は帰路になる)ので今のうちに記事を一本くらい書いておこうと思ったのですが、まともな内容を書こうとするといちいち資料で確認するのが面倒なので適当に書ける内容を探しに我々はアマゾンの奥地へ向かった。

 今回は昭和基地の娯楽に関するお話です。
 娯楽といっても人によってはさまざまで、たとえば松永久秀は蓑虫踊りを見るのが趣味だったそうですが、今回は「専用の道具・設備が必要で、それに関する設備が存在するもの」について紹介します。


インドア


 ほとんどのものは管理棟二階のバーにあります。

ビリヤード(キャロム)


 一般的なビリヤードといえば四ツ角に穴の空いたポケットだと思いますが、昭和基地のバーに備え付けられているのは穴のないキャロムです。キュー、ボールなど必要な器具も十二分に存在しており、対戦相手がいればいつでも楽しむことができます。

 59次では四つ球ルールがメインで大会が行われていました。現在は第五回大会が開催中です。はぁ? わたしは一回戦で負けましたが? 何か? 問題でも?



麻雀


 南極といえば麻雀。第一次南極地域観測隊の越冬隊長である西堀栄三郎が麻雀にキレ散らかしていたことはご存知かと思います。
 雀卓はビリヤード台の脇に存在しています。もちろん牌も揃っており、台の真ん中には賽子をこう……良いかんじにする部分もあります。

 鳴くとか、最初から輸血しておくと有利とか、藤堂が平然とやるとかは知っているのですが、細かいルールはよく知らず、うまく解説できません。なんか南を絡めると点数が上がるとか上がらないとか逸話も聞いたような気がしますが、採用されているのかいないのか。



ダーツ


 ビリヤード台を挟んで麻雀台の反対側には電子ダーツボードと点数表示用のディスプレイがあります。

 これも20点の3倍のところに毎回当て続けるとすごいということくらいしかルールは知りませんが、プレイヤーを登録して点数の記録をつけたりすることなどもできるようです。



パチンコ


 電子ダーツのディスプレイ隣にはパチンコ(パチスロ?)台が3つ並んでいます。

 が、賭け事とかガチャとか基本無料とか嫌いなので例によってルールがよくわかりません。ビル傾けて玉を穴に入れれば良いのでしょうか。まるで亡霊のダンス……浮遊し乱舞するだけ……!




音楽


 ミュージコゥは万国共通です。バーにはギター、ベース、ドラム、ウクレレ、マラカスなどがあり、腕に自信があるならばミッドウィンター祭でバンドを組んだり、感極まって客席にダイヴしたり、音楽性の違いで解散することができます。



卓球

ピンポン球は異常に大量にあり、おかげで先日の誕生日会では概要をここに書いたら日頃の行いのせいも含めて現実を疑われそうになるピンポン球を用いたシステムを完成させることができました。

 ラケットに関しては怪しいですが、ネットはあります。それにラケットが足りないのであれば、理系らしくキムワイプ(*2)を使えば良いのです。
*2) 日本製紙クレシアから販売されている紙ウエス。理系分野ではよく使われているせいか、箱をラケット代わりに使う「キムワイプ卓球」なるものが行われている大学もある。



ボードゲーム


 バーにはボドゲも大量に。将棋、オセロはもちろんのこと、『汝は人狼なりや否や』(*3)『どうぶつしょうぎ』『ジェンガ』などメジャーからマイナーなものまで取り揃えております。
*3) 推理・トークゲーム。十数年前にオンラインで流行し、多数のクローンが誕生した。一部のMMORPGでもチャットを使って行われていたりもする。

 アナログ版『人狼』って初めて見たけどこういうかんじなのね。絵も綺麗でけっこう好き。




映画


 管理棟3階の食堂隣、サロンには長年の堆積物である映画が多数取り揃えてあります。中にはかなり古いものも。



読書


 昭和基地には多数の蔵書がありますが様々な場所に散っており、食堂には南極関連の書物が、庶務室には小説や専門書などが、洗面所や居住棟には漫画が揃えられています。越冬中にすべての本を読み終えることは困難でしょう。





アウトドア


 ブリザードの最中に外歩きをするだけでエクストリーム散歩になる昭和基地ですが、平時に外遊びができるような道具ももちろん取り揃えております。




釣り


 以前に→南極/漁協と釣りと生態調査で紹介したように、南極での釣りは一般的な娯楽です。小さいものではショウワギス、大きいものだとライギョダマシ捕獲に向け、漁協係は日々邁進しています。



球技


 球技と一括してまとめてしまいますが、一般的なスポーツに使用されるようなボールは基地に揃っています。いつでも遊びたい放題。あと必要なのは友だちだけだ。



スノーボード


 なんか写真が酷いですがスノーボードはもちろんあります。ソリも。

 残念ながらリフト設備はありませんが、天然のスロープで滑走は可能です。上りは歩けば良い運動になるでしょう。



筋トレ


 己を鍛えるという概念から対極の存在なので自分はほとんどやりませんが、隊ではわりと人気コンテンツな筋トレです。ウェイトトレーニングの装置は各種取り揃えております。




 というわけで今回は昭和基地の娯楽(道具を使うもの)を紹介しました。なんかルールがわからんばっかり言っていた気がするが。

 わたしの場合はよくビリヤードをやってるのですが、数日後から2ヶ月半ほどドームふじ基地への内陸旅行に行ってくるので玉撞きができなくなります。帰ってきてからはしらせでの帰路に移ります。日本だとやる機会があるかなぁ。

 帰路は往路と同様、メール経由でテキストオンリーの記事は更新できなくもないので、ちょろちょろと更新するかもしれません。ではまた2ヶ月半後。本日は以上です。







2018年11月3日土曜日

観測隊/車両越冬隊員の場合


 この[隊員]ページ第59次南極地域観測隊の隊員のうち一部に個人的にインタビューをし、纏めたものです。個人の詳細については深く立ち入らず、内容は、

  • 南極での仕事 :何をするために南極に来たか
  • 南極に来た経緯:どうすれば南極に来られるか

に集約されています。


南極での仕事


 雪上車の整備。


南極に来た経緯


 所属している企業が雪上車の製造会社で、社内選考を経て参加することになった。南極に行けるからこの会社に入ったようなもの。
 あまり大きな選考というわけではなく、「行く? 2、3年後に行こうか? じゃあ準備しよう」というような流れとのこと。


南極の感想


 来てみたら想像と違った。
 ここは厳しすぎる。







管理人より


 設営部門、車両担当の方です。南極での車両は大きくわけて二種類で、ひとつは日本でも一般に使用されているようなトラック(装輪車)で、夏の作業時期に使用されています。もうひとつがキャタピラの雪上車で、夏の内陸観測と長きに渡る冬の輸送・観測・旅行活動に使用されます。この方の指す「車両」というのは後者です。

 現在の昭和基地にある雪上車は、PB300という海外製品が僅かにあるのを除き、大原鉄工所製です。なので車両担当の隊員は大原から派遣されてきます。逆にいえば、もし南極に行きたい場合、(毎年1人程度という狭き門とはいえ)大原に行くことが近道といえるようなそうでもないような。

 先日のみずほ・ドーム中継点旅行では3台の雪上車で向かったのですが、その3台がそれぞれエンジン関係のトラブルで走行不能な状態となりました。自分はわりとパラッパラッパーなのでヒートガンでチューブ温めるくらいしかできなかったのですが、この人は車両担当で真面目なので冷や汗どころではなかったでしょう。帰ってきたときには1.5kg痩せていたそうです。

「わざわざこんなに寒いところに来たがるなんて、研究者の方々はおかしいのでは?」としきりに言っていましたが、話聞いてみるとこいつも南極に来たがっていたんじゃねぇか。


© この星を守るため
Maira Gall