2017年12月8日金曜日

観測隊/砕氷船しらせ


 ついにやりました。やってやりました。庶務や隊長へのこのブログの連絡です。

「個人で南極関連のSNSをやっている場合は連絡してください」と思っていたため、連絡しよう、連絡しようと思っていたことは思っていたのですが、主にブログタイトルが恥ずかしくて(*1)報告できなかったわけですが、船上で庶務からSNS関連の連絡があったので、これは好機とばかりに連絡しました。
*1) 誰だよ「この星を守るため」なんてタイトル考えたやつ。

 だいぶ遅くなってしまった連絡ですが、このタイミングでの連絡は庶務や隊長もインターネットに接続できないため、ブログの内容の確認ができないというメリットがあります。へっへっへ、内容確認もせずに「連絡ありがとうございます」だなんて返信しやがって。これが講習で学んだリスク管理よ。

 そういうわけで公式のほうに連絡をしたため、基地到着後は庶務等からの確認を受けることとなります。もし検閲を受けて弾かれる部分があるとすれば、たぶん戦時中の教科書(*2)みたいになると思いますのでご了承ください。
*2) もしくはSCP。

 という書き出しで始まった今回、メールはできるもののインターネットに接続はできない、現在乗船中の砕氷船しらせに関するお話です。


  1. しらせの概要
  2. しらせの構造と設備
  3. しらせでの生活



1) しらせの概要


 砕氷船「しらせ」という名前は日本で最初(1910-1912年)に南極地域への探検を行った白瀬矗(しらせ・のぶ)中尉の名前に由来し、日本南極地域観測隊(JARE)の船としては四代目の船になります。


  • 1代目 宗谷
  • 2代目 ふじ(1965年就航)
  • 3代目 しらせ(1983年就航)
  • 4代目 新・しらせ(2009年就航)


 現在のしらせは新しらせで、様々な点で改良が施されています(*3)。
*3) 旧に乗ったことがないのでよくわからんけど、たぶん現在のしらせは変形したりするんだろう。


 しらせは往路は11月中旬に日本の晴海を出港後、11月末のオーストラリア、フリーマントルで観測隊を乗せて出発。12月下旬に昭和基地付近に到着します。

 復路は2月に昭和基地を出発し、東進して沿岸のいくつかの地点で観測を行ったのち北上をはじめ、3月の半ばごろにオーストラリアのシドニーに到着します。観測隊はここから空路ですが、しらせは2-3週間程度かけて帰国します。

 船体の大きさとしては長さx幅x深さx喫水が138x28x15.9x9.2m。基準排水量12,650トン、巡行速力15ノット(約28km/h)、人員:貨物が観測隊等80名:1,100トン。輸出力30,000馬力、推進方式はディーゼル電気推進2軸、運べる物資が燃料込みで約1,200トン(だいたい60%くらいが燃料)というのが手元にあるデータです。


2) しらせの構造と設備


 砕氷船しらせの艦内には、単なる推進施設や寝床のみならず、さまざまな設備が存在します。その中で代表的な設備について説明します——がその前に、船特有の階層構造について説明します。

 しらせで基本的に立ち入ることになるのは8つの層で、上から、


  • 06甲板:家でいえば屋上にあたり、気象観測装置が備え付けられている
  • 05甲板:重要設備である艦橋や気象海象室のほか、観測隊の気象観測に用いられる観測室(一観)がある
  • 04甲板:船長室、副長室、電話室のほか、DVDレンタル施設や郵便局も
  • 03甲板:士官室のほか、保養室(ジム)がある
  • 02甲板:専任海曹室などがあり、隊員よりは船員たちの層
  • 01甲板:飛行甲板があり、格納庫にはヘリが置かれている。体育時間は外でランニングも可能
  • 第1甲板:隊員寝室や食堂となる公室、風呂があり、基本的に隊員はここで活動。海洋観測などで用いられる観測室があるほか、外に出ると観測甲板も
  • 第2甲板:倉庫などがある


 となっています。


 基本的にしらせの艦内は隊員が自由に出入りできるようになっており、主要な船のコントロール設備がある艦橋(いわゆるブリッジ)も入ることができます。といってもここは大事な場所なので、行動や服装にいくつかの制限はありますが。立ち入り不可能なのは航空支援室や電信室といった機密情報が保持されている場所と、女性隊員区画くらいなものです。

□隊員寝室
 第1甲板にあります。隊員の寝泊まり場所なので、必然的にとどまることが多い部屋です。基本的に二人部屋で、家具は二段ベッドとソファのほか、机とロッカー2種が二人分あります。電源(100V)も引いているため、ここで一般的な作業も行うことができます。


 艦内にはLANが整備されており、インターネットは使用できませんが、衛星回線を使ってのメールが可能です。ただし容量削減のため、

  • 一通あたり500KBまで
  • 一ヶ月の総容量は3MBまで

といった制限があります。

 ちなみに実家の母に転入届やインターネットモデムの返送などを頼んでいたので、大丈夫だっただろうかとメールをしたら「Amazonで(転送されたものが)なんか届いたよ」と来ていたので「あ、やべぇ、なんかやべぇもの(*4)予約注文していたかな」と思っていたら『はじめての犬まゆげ』*5)でした。あぶねぇ、これはセーフのやつや。

*4) 定義は各自。
*5) 90年代からVジャンプで長寿連載している、石塚2祐子によるゲームエッセイ漫画。雑誌でのタイトルは『犬マユゲでいこう』だが、数年に一度単行本が出るとわけがわからんタイトルと装丁になり、旅行雑誌や料理本の棚に置かれることになる。数多くの『かまいたちの夜』でヒロインをヒグマに守らせ、『ウィザードリィ』でトルシエ監督に奇襲をかけさせた。

 艦上では電話も可能で、インマルサット衛星を利用。ただし金額は自己負担です。料金がどのくらいかというと、インマルサットサービスはグループ0〜5の6種類の料金(宛先)区分があって、しらせから日本への通話は受信する側の地域を参考し、日本は最も安い料金区分であるグループ0なのですが、KDDIスーパーワールドカードの1000円カードで通常時間だと4分12秒(割引時間帯となる深夜だと8分6秒)通話が可能。つまり1分あたり約238円くらいです。

 一方で日本からしらせにかけることも可能なのですが、その場合は30円/6秒なので、1分あたり300円。しらせからかけるほうが経済的ですね。

 ちなみに(こちらもやはり有料ですが)FAXや電報も利用できます。

□公室
 第1甲板にあります。隊員が食事やミーティングを行う部屋です。掲示板やホワイトボードもあり、重要な情報はここに張り出されます。スクリーンやビデオデッキもあるため、スライドや映画の上映も行うことができます。

□風呂場
 第1甲板にあります。風呂場にはシャワーと浴槽が、脱衣所には洗濯機と乾燥機があります
 節水の観点から1日1度までですが、起床から消灯までの間、巡検中を除いていつでも入浴可能です。洗濯機と乾燥機も(節水を守ったうえで巡検中を除き)自由に使用することができます。

 ちなみにリンスインシャンプーや石鹸は備えがあります。また、港に停泊している間は浴槽の水は真水ですが、航海中は水の節約のため、海水になります(*6)。浴槽に浸かったあとはシャワーで洗い流しましょう。
*6) ナトリウム入りと書けば温泉のようなものでは。

□保養室
 03甲板にあります。ランニングマシーンやエアロバイクがあり、ジムともいう。0000-2100の間利用することができます。ただ、そこまで広い部屋ではないので、悪天候や夜間でなければ体育は甲板でやるという人のほうが多いようです。


 01甲板での艦上体育は休養日は0800-1800、氷塊停泊中は0800-2130(もしくは日没まで)の間、基本的に許可されています。ただし天候によっては許可されなかったり、場所が限定されなかったりという場合もあり。
 艦上ではキャッチボールなど、簡単な球技も行えないことはないですが、特に人数が多いのはランニングです。01甲板外周を周回し続けます。いまの時期はだいぶん寒いので、ある程度着込んでから走りましょう。ちなみに1周は約200mだそうです。

□郵便局
 04甲板にあります。名称としては「銀座支店昭和基地内分室」となっており、辞令を受けたスペシャリスト隊員としてしらせの乗員が駐在しています。ただし無給だそうです。


 郵便物の引き受けのほか、記念消印の押印、郵便切手の販売がなされており、国内と同料金です。しらせ往路ー夏期間で出された郵便物は、しらせ復路で持ち帰って4月中旬以降に発送予定。冬期間に出された郵便物は、翌年のしらせで持ち帰るため、翌年4月以降に発送予定です。

 ちなみに切手や消印の収集家という方が世の中にはわりといて、そういう方はどうやって調べているのかわからないのですが隊員に「押印して返送してくれ」という手紙を出してきたりします(*7)。今回、自分のところにも届いていました。余裕があるときに返します。
*7) 北極のラベン基地でもあった。

□DVDレンタル室
 04甲板にあります。通称TUTAYA。
 隊員には乗艦後しばらくしてからレンタル会員証が配られ、ここで貸し出しを受けることができます。一度に借りられるのはDVD2本とBOX1本の計3本までで、期間は一律2泊3日となります。ここで借りたDVDで、夕餉のあとに公室での上映会などもやっていたりします。


□観測室
 第1甲板や05甲板にあります。基本的に下のほうにある観測室ほど海に関するもので、上にある観測室は大気に関するものです。



3) しらせでの生活


 基本的なサイクルとしては、


  • 0600 起床
  • 0615 朝食
  • 1145 昼食
  • 1745 夕食
  • 1900 掃除
  • 1930 巡検
  • 2200 消灯


となっています(ただし停泊中は食事の時間が少し違います)。

 朝0600に「総員起こし」の放送が入り、起床します。そのまま公室で朝食です。

 ごはんはセルフサービスとなっており、時間には基本的に厳格ですが、量に関しては体調に合わせて選べます。新しらせは揺れにくい構造とはいえ、揺れるときは揺れ、酔うときは酔うので体調に合わせて盛りましょう。食事の種類は様々ですが、水曜日の朝はパン(といってもご飯も選べる)、金曜日は海軍カレーとなります(*8)。

*8) ちなみにわたしは海軍カレーを食い逃すことにかけてはプロフェッショナルで、訓練でしらせに乗船したときはなぜか金曜日がカレーにならず、観測装置を乗せに来たときに港の食堂に行ったときは盆休みで、さらにもう一度観測装置の調整に来たときは12時前なのに「食堂の米が切れた」ということで三度逃した。

 朝食後から昼食前にかけては個々人によって過ごし方が変わる自由時間。自由といっても、人によって艦上で仕事がある場合とない場合があるので、仕事がある場合もあります。


 自分の場合は艦上で雲や水蒸気、雨などの観測が1日1回あるのですが、この時間帯に忘れないうちにやってしまうことが多いです。

 昼1200に昼食。その後はまた自由時間。
 夕1745に夕食。この後はたいてい全体でのミーティングが公室であります。

 その後の掃除は艦乗員の方が観測隊の区画も清掃してくれるので、観測隊員の清掃場所は基本的に各自の寝室です。ちなみに掃除用具入れは第一回南極地域観測隊の樺太犬の生き残りである「タロ」「ジロ」という名前がついています。


 掃除のあとにある巡検というのは簡単にいえば見回りで、清掃状況などを点検することです。といってもこれは隊員が行うのではなく、乗員が行うのですが、この間は入浴やトイレ、洗濯機などの使用ができないので先に済ませておきましょう。

 2200には消灯となります。といってもすぐ寝ろというわけではないので、人によっては起き続けている場合もあり。

 その他、しらせでの注意点ですが、しらせは軍籍なので、威容の保持という考え方があります。
 要はあんまりだらしない状態を見せるな、ということで、具体的には、

  • 下着姿やスリッパで上甲板に出ない
  • レールにもたれかからない
  • 洗濯物を外に干さない

などを言われています。

 また気になるところとしては船酔いだと思います。しらせは先代に比べると「揺れない」と言われていますが、まぁ完全に揺れないわけがないわけで。出港後は具合を悪くした方もいたようです。わたしの場合は現在は慣れて平気になりましたが、最初は船酔いの薬を飲んでいました。

 観測船の船酔いというのは酷くなるとゾンビ化に似ていて、以前に乗った観測船だと台風の中に突入したので多くの観測員が具合を悪くし、観測時間までの間はベッドカーテンの隙間から手だけ出ている状態で、観測時間になると顔色の悪い者どもがふらふらと彷徨い歩くという有様でした。それに比べるとしらせはだいぶん平和ですね。ゾンビでも『ウォーム・ボディーズ』(*9)レベル。
*9) ゾンビがイケメンすぎるゾンビ恋愛映画。

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Maira Gall