2018年5月7日月曜日

南極/漁協と釣りと生態調査

 ノートパソコンのディスプレイが壊れました。

 壊れたといっても、右側1/4が映らなくなってしまっただけで、残りの3/4は無事なのですが、もともと使えた領域が使えなくなるとなるとなんと不便に感じるものよ。Macなので、Air Dropやアップデートの通知はギリギリ見えるものの、ブラインド選択になります。心の目が試される。

 原因はイヤホンの端子をディスプレイとキーボードの間に挟んだまま、ディスプレイを閉めようとしてしまったことです。ヒビが痛々しい。日本に戻るまでまだ10ヶ月ほどあるのに。

 こうなると、他の機械も壊れないとは限りません。ディスプレイは外付けディスプレイをつなぐことでなんとかなりますが、ハードディスクが壊れたりすると手もつけられないわけで、たまにはバックアップでもとるか、という気分に。

 マシンがお釈迦になったのなら、このウェブログの更新も難しくなるでしょう。であればいまのうちに書きたいことを書くべきで、『名探偵コナン』の黒の組織のボスの正体はウォッカだと思っています。ジンがピンチになったら急にでかくなって「きみには期待していたのだが、がっかりだよ、ジン」とか言うの。あの、こう、RED(*1)のウォーターズみたいな。ちなみに『名探偵コナン』は京極さんが出たあたりくらいまでしか読んでいません。
*1) 村枝賢一の漫画『Red -living on the Dead-』。南北戦争後のアメリカで一族を殺されたインディアン・レッド、西南戦争の生き残り伊藤伊衛郎(イエロー)、インディアンに興味を持つ娼婦アンジーが西部を放浪する。

 さて、心残りをなくしたところで、今回は先日行った生態調査釣りに関連した内容を書こうと思います。

 といっても概要は簡単。海氷が十分に厚くなっているところへ赴き、アイスドリルで穴を空け、そこに餌をつけた針を垂らすだけです。


 ドリルで海氷上に穴を空けるとき、大量に氷の削りカスが出ます。これは削りカスの山で穴の位置を視認しやすくするために、穴の近くに寄せておくのが望ましいです。


 運が良ければ、針を落としてすぐにかかります。

 使っている餌は、フリーマントルで釣った魚や購入した烏賊、オキアミ、蛸などです。赤いのは着色しているためで、赤いほうが魚が寄って来やすいといわれており、紅生姜でも釣れるそうです。また、醤油や出汁のような匂いがする香料を付ける人もいました(*2)。
*2) ちなみにこのように色をつけたり匂いをつけたりするのは、南極特有ではない。魚は意外と鼻が良い。


 前回の生態調査釣りでは、午前午後合わせて全体の釣果が20匹超、自分の釣果は3匹でした。釣れたのはショウワギスという、ハゼに似た魚が主です。




 さて、生態調査釣りですが、なぜこう、あの、ほら、釣りっていうか、その、アレだ、生態調査ということになっているかということについて説明します。

 まず、南極環境において、魚類は比較的蔑ろにされている部類です。

 基本的に南極地域で保護されているのはペンギンやアザラシで、たとえば名前でわかりやすい『南極のあざらしの保存に関する条約』(1980年に効力発生)では、

第一条 適用範囲
(2) この条約は次の種類について適用することができる。
・みなみぞうあざらし(ミロウンガ・レオニナ)
・ひょうあざらし(ヒュドルルガ・レプトニュクス)
・ウェッデルあざらし(レプトニュコテス・ウェデルリ)
・かにくいあざらし(ロボドン・カルキノファグス)
・ロスあざらし(オントフォカ・ロスィ)
・みなみおっとせい属(アルクトケファルス属)に属する種類

に関して、条約適用範囲である南緯60度以南の海域での捕獲・殺傷を禁じています。ただし例外があり、

第4条 特別許可
(1) この条約の規定にかかわらず、いずれの締約国も、次のことを目的として、限られた数量のあざらしをこの条約の目的及び原則に従って殺し又は捕獲するための許可証を発給することができる。
 (a) 人又は犬に不可欠な食料を供給すること。
 (b) 科学的に調査に供すること。
 (c) 標本を博物館、教育施設又は文化施設に提供すること。

 食っていいんかい。

「不可欠な食料」という意味がいまいち読み取れないのですが、ようは毛皮・脂といった商業的な目的でなければ仕方がない、といった見方なのでしょう。あるいは食料欠乏の場合に捕獲できるように、ということかもしれません。なんにしても、あくまで「許可証を発給することができる」なので、食べるためだから捕獲して良い、というわけではないようです。

 ともかくとして、この条約で守られているのはアザラシなどの海洋哺乳類だけです。

『南極の海洋生物資源の保存に関する条約』(1982年効力発生)では、

第一条
2 南極の海洋生物資源とは、ひれを有する魚類、軟体動物、甲殻類その他の南極収束線以南に存在するすべての種類の生物(魚類を含む。)である資源をいう。

ということで、魚類も保存の対象にはなってはいますが、あくまで「資源」としてで、保護の対象というわけではないようです。

 そういうわけで、釣り——すなわち魚類の捕獲は、法的には縛られてはいません。

 しかしながら、法的に許可されていれば好き放題にして良いわけではないわけで、日本では『娯楽としての魚類等海棲生物の捕獲に付いてのガイドライン』を制定しています。このガイドライン曰く、

◇生物種・魚種による規制はないが、生き物であることを念頭に、娯楽として常識的な範囲での捕獲に止めること。

ということになっており、捕獲結果として、捕獲日時や種類、捕獲場所、体長、重量などを記録しておくことが定められています。南極観測隊ではそれを守っているというわけです。健全ゥ。

 生態調査らしく、大きな魚類の場合は胃袋の中を開いて餌を調査するということもやることになっています。今回釣れた中だと、胃袋の中を開くほどの大きなサイズではなかったのですが、釣れたときに食べていたらしいゴカイのような虫が出てきて、ショウワギスの主たる餌がわかります。

 現在までのところ、釣れているのはほとんどがショウワギスですが、釣りを主導している漁協係はライギョダマシという大型魚を釣ることを目標とし、日夜邁進しています


 ライギョダマシは通常の竿と糸で釣るには大きすぎる魚なので、通常の竿と仕掛けでは釣ることができません。大型の設置式器具を用い、大きな針に魚を餌として取り付けて放置し、かかるのを待ちます。

 この記事を書いている2018年5月7日、漁協はライギョダマシ用の仕掛けを設置しました。
 これまでライギョダマシは、2年に1度程度のペースで釣れているようですが、果たして今次隊は釣り上げることができるのか。続報をお待ちください。

 なお、これまでに釣れた魚はスタッフで美味しくいただきました。



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Maira Gall