2018年6月15日金曜日

隊員/重点研究宙空圏越冬隊員の場合


 この[隊員]ページ第59次南極地域観測隊の隊員のうち一部に個人的にインタビューをし、纏めたものです。個人の詳細については深く立ち入らず、内容は、

  • 南極での仕事 :何をするために南極に来たか
  • 南極に来た経緯:どうすれば南極に来られるか

に集約されています。


南極での仕事


 ライダー(レーザーレーダー。光を射出して大気の鉛直状態を観測する装置)の保守点検と観測。昭和基地に設置されているライダーのレーザーは気水圏のそれと比べると出力が大きく、世界で5、6台しか存在しない。出力が大きく、波長をチューニングが難しいため、マニュアルで調整しなければならない。

 また、ソフトクリーム係長としてソフトクリームの管理。

南極に来た経緯


 もともと宙空圏のライダーに関連したプロジェクトで雇われており、その流れで南極に来ることになった。明確にどの時点で決まったということはなく、完全に流れ。ライダー関係で人を出したいということになっていたため、いつのまにか決定されていた。実質、社内公募みたいなもの。

南極の感想


 変わり映えしない。






管理人より


 観測系編です。南極といえばオーロラとペンギンという印象を持っている方がほとんどだと思いますが、オーロラは宙空の領域です。

 宙空の主たる重点研究課題はPANSY(昭和基地大型フェイズドアレイレーダー)なのですが、PANSYの保守観測は三菱から選出される隊員が行うため、極地研からの研究観測隊員は保守観測を行いません。

 この方が使うライダーという観測装置は、単純にいえばレーザーを射出し、空中の大気や微粒子にぶつかって戻ってくる反射光(正確にいえば、後方散乱光)を観測することで上層大気の鉛直分布を観測する装置です。レーザーレーダーという名前からわかるとおり、基本的な概念はレーダーと同じで、大きな違いは使用する波長です。レーダーはいわゆる電波と呼ばれる長い波長を使いますが、ライダーは目に見える光に近い短い波長を使います。

 この方とは砕氷船しらせで同室だったので、道中に今回の記事の元となるインタビューを行いました。しらせでは近くにクジラやペンギンの群れやが見えると『十時の方向にペンギンの群れ。泳法はバタフライ』などといったアナウンスがあるのですが、その度に「観測に行かないと」と言って部屋を飛び出し、海氷が近づくと「ワッチ(船上での当直当番のような意味)だ」と飛び出して行ったのは記憶に新しいです。


2018年6月8日金曜日

観測隊/冬の過ごし方


 5月、6月と月末に個人的な(つまり研究関連でも観測隊関連でもない)締め切りが続いた結果、ここのところブログ執筆をさぼってしまっていました。越冬後半になると内陸旅行もあるので合計4ヶ月くらい不在になるし、なんか不安になってきたぞ。

 ともかく、わりと手が空いたので久しぶりにブログを書きつつ、ゲームもできなかったしそっちの情報を(ブログより優先的に)漁っていると『Bloodstained』(*1)が発売されたという情報が飛び込んで来る。
*1) 『悪魔城ドラキュラ』シリーズ(*2)で知られるIGAがKickstaterで資金を募り、目標50万ドルのところ500万ドルを超えてゴールを果たした2Dアクション。
*2) メトロイドヴァニアというジャンルの命名元となった双璧のうちの一柱(英語版のタイトルが『キャッスルヴァニア』のため)。もう片方はそのものをプレイしたことがなくても『大乱闘スマッシュブラザーズ』で知名度があると思われるサムスが主人公の『メトロイド』。

『Bloodstained』はかなり期待のタイトルだったので、もう発売してたのかとウキウキで見てみたら、本編の『Ritual of the Night』ではなく、450万ドル突破のストレッチゴール達成による前日譚『Curse of the Moon』でした。へっ、いまさらレトロ2Dアクションなんて……でも買ってしまう。普通に面白いじゃねぇか。これは本編も期待できる。

『悪魔城ドラキュラ』は(たぶん)自分が最初にプレイしたビデオゲームなので思い出深い……というほど記憶がハッキリしていないのだけれどなんとなく印象に残っています。友だちのお父さんが医者で家にパソコンがあって、それでやらせてもらった。まぁ初代はIGA監修じゃないのだけれど。あと2Dアクションで記憶に残り具合だと『魂斗羅スピリッツ』(*3)のほうが深いのだけれども
*3) また宇宙人が攻めてきた! だが魂斗羅(熱い斗魂とゲリラ戦術の素質を先天的に合わせ持つ、最強の闘士)たちがまたやってくれたぜ! な頭悪い系アクション。個人的なSFC最高傑作。ヘリのミサイルに掴まって空中戦やるステージが好き。

 久しぶりなので飛ばしました。ついてこれるか。

 さて、現在6月は日本のある北半球では夏ですが、南極のある南半球では季節が逆なので冬となります。真夏には零下そこそこだった気温はマイナス三十度にまで達するようになり、風が吹けば骨身まで染み入る寒さを感じます。


 が、それ以上に日常生活に大きく関わるのが日照時間(*4)の低下——というより太陽が地平線の上に顔を出さなくなる極夜です。
*4) ちなみに気象的には、日照計が120W/m2以上を測定している時間。120W/m2がどれくらいかというと、お昼の晴れた日がだいたい1000W/m2くらいなので、いちばん明るいときの1/10くらいの明るさまでは「日照があるよ」と定義しているということになる。

 極夜になっても、基本的な生活サイクルはほとんど変わりません。越冬隊の基本的な平日のタイムテーブルは、

  • 0800 (夏は0700) 朝食
  • 0900 (夏は0800) 午前業務開始
  • 1200 昼食
  • 1300 午後業務開始
  • 1700 午後業務終了
  • 1800 夕食

となっていますが、太陽が昇らなくてもこのスケジュールは大きく変わらず、ちゃんと仕事をしています。えらいっ。


 もちろんのこと、薄暗いゆえに外作業は難しくなりますが、太陽は昇らないといっても完全に消えてしまったわけではありません。地平線の下にあったとしても、相対的に高めの高度であればある程度明るくなります。

 たとえば太陽高度が-4度(太陽の中心が地平線の下の見上げ角度-4度)のときの様子がこんな具合。


 もちろんカメラの露出とかを弄っているため、肉眼そのままの画像ではないのですが、空の明るさは太陽の光の散乱(跳ね返り)によって生じるものであるため、太陽そのものが地平線の上になくてもある程度明るさは感じ取ることができます。

 といっても、それも太陽が地平線に近い間のこと。南中時刻から徐々に太陽が深くなっていくにつれて暗さも増していき、6月の一週目週末の現在となると15時くらいにはもう真っ暗闇。

 日本であれば、街灯や建物から漏れる光で月がなくとも明るいものですが、昭和基地では太陽が沈んである程度暗くなると、宙空圏(宇宙・天文関係)のオーロラ等の観測が始まります。この時間帯は基地から漏れるわずかな光でも観測の邪魔になってしまうため、基地内のカーテンをすべて引き、街灯も消して夜よりほかに聴くものもなし。


 そういうわけで暗くなると、基地内の活動が多くなります。

 さらに時間が経ていくと太陽高度が最も低くなり、さらに暗さは増し、闇夜の時間は増え、人間活動に大きな影響を及ぼすようになります。具体的には眠れなくなったり、精神的に陰鬱になったりしてきます。


 そういった暗い気分を破ろうという理由から——かどうかはわかりませんが、極夜の最夜期(今年は6月21〜24日)にはミッドウィンターフェスティバル(MWFというお祭りが開かれます。

 これは日本の観測隊特有の祭りというよりは、規模の大小あれ南極のどの国でも基地ごとにやっている祭りで、MWFの期間にはグリーティングカードを各国の基地間で交換しあったりします。

 さて、日本の場合だとMWFの期間に何をするかというと、今回はたとえば、蕎麦打ち、餅つき、屋台、肝試し、ミスコン、宝探し、演芸大会、ミニ四駆、麻雀大会、カラオケ対決、Youtuberバトル、笑ってはいけない昭和基地などを行います。

 ちなみに基地には各隊次で発行された新聞が残されており、最も古いものだと五十年近く前の13次隊の新聞が残されているのですが、その記事によれば当時のMWFのスケジュールは以下のようなものだったようです。



 たいして変わってねぇな人間。

 まぁ飲んで遊んでという具合だと思ってください。おっさんの饗宴です。ポロリもあるよ。たぶん。


 余談ですが、今回の話はMWFが終わった六月末にでも書こうと思ったのですが、

  • ・なんかすぐ書きたい話題がない
  • ・ミッドウィンター中に撮った写真とか公序良俗に反しそう

という理由につき、MWFが始まる前に書いてしまうことにしました。

© この星を守るため
Maira Gall