2018年10月18日木曜日

観測隊/みずほ・あすか・ドームふじ基地


 9月13日から10月13日までおよそ1ヶ月間、内陸に行ってまいりました
 更新がなかったのはサボっていたわけではありません。おかげさまでアヴローラとか取れなかったわけで。

 今回の旅行はみずほ・ドームふじ間の中継地点を目指したもので、具体的な行程は下図の赤線のとおり。


 中継地点という場所はその名の通り、みずほ基地(上図:Mizuho)とドームふじ基地(Fuji)の中間にあります。長さにしてみれば数百キロ、舗装された道を車で駆けるのであれば1日での踏破も不可能ではない距離ですが、今回は片道15日を要しました。



 3日ほどブリザードで停滞した以外は特に足踏みすることもなくたどり着けたのですが、停滞しているときはハイスピードバーテンダーアクション『VA-11 Hall-A』(*1)をプレイしていました。
*1) ベネズエラのSUKEBAN GAMESによる、研究職になる前にドロップアウトしてバーテンダーとなった主人公ジルが政府直轄のバーでドノヴァンに合成ビール(大)を叩き込みながら家賃に苦しむADV。

 一回家賃払えなくて追い出されました。個人的にはいろんな意味で現実が追いついてきそうな話なのだ本当に。
 ここ数年ADVからは遠ざかっていたけど、南極来るまえに『Oneshot』(*2)やってすごく好きになったりだとか、油断できない。
*2) ねこがかわいい。

 以前にも書いた通り、現在日本で主に稼働している唯一の基地である昭和基地は南極大陸上には存在しておらず、大陸そばの東オングル島上に存在しています

→観測隊/昭和基地
https://jare59.blogspot.com/2018/02/blog-post.html

 しかしながらかつて日本は、無謀にも大陸上に進出しようとしていましたのです。
 安全な沿岸ではなく、凍てつく吹雪の内陸へと登ろうとしていたのです。
 みずほ、あすか、ふじ——凍える南極の大地には程遠い名をつけ、この冷たい大地で生活をしようとしていたのです。



 今回は内陸旅行と昭和基地以外の基地のお話です。


□内陸旅行に行く前に


 2017年度版『南極野外行動マニュアル』によれば、野外行動は大きく分けて夏期と冬期に分けられます。

 ドームふじ旅行を除けば比較的近距離、かつ温暖な夏期と違い、冬期の内陸旅行には極寒、暗黒の日々、常なる危険、そして僅かな報酬、僅かな報酬! といった20世紀の冒険家、アーネスト・シャクルトンが述べたとおりの危険が付き纏います。

 夏期であればヘリコプターや航空機(DROMLAN)といった航空機も活躍しますが、冬季の内陸のみずほ基地/中継拠点/ドームふじ基地などの観測地点へ赴く際、主な移動手段となるのは重量11.5トンの大型雪上車SM100です。



 -60度までの気温に耐える(*3)この雪上車は移動手段であると同時に食堂であり、宿泊場所でもあります。
*3) まぁ-60度以下に下がったりもするのだけれど。そうなったら停滞 or Dead。



 時速およそ8km程度の速度で進むSM100の参考燃費は4.4L/km(*4)。たとえば1日60km
ほど進むのなら、約260Lの燃料を必要とします。SM100の燃料容量は250Lなので、毎日(では足りず昼と夕の2回)の給油が必要です。そのためには燃料を橇で引いて行く必要があります。
*4) 4.4km/Lではない。

 橇は複数種類がありますが、主として使われるのは2トン積み木製橇(2トン橇)というものです。約200Lの燃料ドラム缶が12本(約2.4トン)積むことができるこの橇は第2次隊から使用されている伝統的なもので、燃料を運ぶほかには物資の輸送などにも使われます。



 橇を引き、燃料を積み、食料を携えた雪上車は内陸へと向かうわけですが、内陸に限らず基地外へ出るときは基本的に決まったルートをとります。



 このルートは基本的に風向きに垂直で、(曲がり角などを除くと)一定間隔でなんらかの標識を立てて目印とします。過去は500mごとであったり、標識にドラム缶を使っていたりもしましたが、現在は2kmごとに赤旗を立てるのが一般的です。



 このルート旗を辿り、内陸へと進んでいきます。




□みずほ基地


 みずほ基地は昭和基地南東270kmの氷床上(南緯70.7度、東経44.3度、標高2244m)に存在しており、昭和基地以外の内陸3基地の中でもっともアクセスしやすい基地であるといえます。片道距離はおよそおよそ1週間程度。

 2000mを超えた標高ですが、南極氷床としてはまだ道半ば。氷床斜面に存在するみずほ基地は斜面滑降風(カタバ風)の影響を強く受け、常に10-20m/sの東風が吹き続けています。

 既に建物はすべて雪の下に埋まっており、立ち入りは禁止されています。



 拠点そのものとしては1968年から使用されており、明確にみずほ観測拠点として設定されたのは1970年のようです。1971年にはプレハブの冷凍庫を転用した居住棟が作られ、長期滞在が可能となりました。その後も徐々に新規の建物が追加され、1978年にみずほ観測拠点から「みずほ基地」として改称されます。
 しかしながら老朽化が進み、1986年に唐突に無人化が告知され、基地は呼吸を止めました。1999年、立ち入り禁止。

 現在は雪の下で寝静まっています。二度と目覚めることはないでしょう。

年平均気圧:732hPa
年平均気温:-32.3度
年平均風速:-11m/s
---> 状態:埋没

 

□ドームふじ基地


 ドームふじ基地は昭和基地から1000km南の氷床上(南緯77.3度、東経39.7度、標高3810m)に存在します。順調に向かって、片道およそ20日。

 他の内陸2基地とは異なり「ドーム」と付きますが、これは基地が傾斜が緩やかなドーム状の氷床の真上に存在していることに由来するようです。南極氷床上ではドームAに次ぐ高度ですが、基盤の高さはわずか800m程度。その上に乗っている3000m超の氷厚に対し、2007年には3035mまでの氷床深層掘削に成功しています。

 1994年に食堂棟、避難施設などの建物の建築が開始され、徐々にその数を増やし、2003-2004年には越冬も行われました。しかし現在は建物のほとんどが雪の下に埋没しています。

 最暑月の12月でも月平均気温は-33度程度。極寒の5月では月平均で-66度に達し、-79度の最低気温を記録した日さえあります。
 しかしながら氷床斜面上ではなく、氷床の上に出てしまっているために斜面滑降風(カタバ風)の影響を受けないため、風は穏やかで、気温がより高いものの風が強い場所より暖かく感じる場合もあります。

年平均気圧:598.4hPa
年平均気温:-54.3度
年平均風速:5.8m/s
---> 状態:埋没



□あすか基地


 あすか基地は他の2基地とは異なり、クイーンモードランド東部のプリンセス・ラグンヒルド海岸から120km内陸に入った氷床上にあります。

 南緯71.5度、東経24.1度、標高980m。1984年に建設が開始され、当時はあすか観測拠点と呼称されていました。1987年には越冬が開始されていましたが、1991年から越冬が中断。現在はほとんど人が立ち入らぬ地点となり果て、他基地と同様に建物は雪面下に陥落しました。

 斜面上に存在するため、常に風が強く、また海岸からも遠くないため、低気圧の影響を強く受けます。

年平均気圧:871.5hPa
年平均気温:-18.3度
年平均風速:12.6m/s
---> 状態:埋没


 以上の通り、昭和基地以外の基地は現在雪の下に埋もれ、休止状態にあります。羨ましい。

 今回の旅行で訪れたのはみずほ基地だけですが、また11月7日からの旅行で同じ道を通ってドームふじ基地へ向かうことになります。今度は2.5ヶ月くらいです。意味わかんねぇな。本音が出た。



 とりあえず死なないようにしたいです。
© この星を守るため
Maira Gall